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キャンプ⑨

誰もが、真冬が切り刻まれると思った時、斬撃は分散した。いや、かき消されたのであった。

『あっぶねーー。間に合って良かった。火輪様と薫子さんに怒られる所だったわ。』

『遅ぇーよ。ヤバタ。』

そう、飄々として現れたのは、ヤバタであった。俺は、心底、感謝をするのであった。







時は、少し戻るのであった。

ヤバタは、皆と別れた後に1人寂しく運転をするのであった。

『どなどなどーなーどーーなー。置いてかれるよー。

どなどなどーなーどーーなー。ヤバタはひとりーー。』

クズが感じた事と同じことを考えていたヤバタは、一人口ぐさむのであった。


そして、家へ辿り着くのは既に日が暮れていたのであった。寂しかったヤバタは、家の明かりが付いているのをみると、ホッとするのであった。

そして、あの後どうなったのかを知らないので、気になっていた。そう、思いつつ扉を開けると、胸の中に、ドンっと飛び込んでくるものがあった。

そして、それが何なのか気が付くと、ヤバタの魂は抜けそうになるのであった。

しかし、それも一瞬の事で、今回は正気に戻るのであった。なぜなら、胸に飛び込んできた火輪が、泣いていたからであった。

『火輪様、落ち着いてください。俺が何とかしますから。』

『ありがとう。グスン。』

火輪は、落ち着くと眠りに落ちてしまったのだ。ヤバタは、何が起きたのか分からないので、薫子さんとメイドの二人に聞いてみるが、3人もまだ聞いていないようであった。

2.3時間後、火輪は目覚めると、まだ動揺しているので、薫子さんはハーブティーを入れてくれるのであった。そうして、落ち着くと、何があったか語りだすのであった。

『あらあら、大変だったわね。そうすると、真冬ちゃんとみっちゃんは、危険に晒されているのね。』

『あの脱獄囚の1人か。それは、やばいな。とてもじゃないけど、真冬ちゃん1人で戦って敵うとは思えないな。』

『ひーちゃん、そんな冷静に言わないの。火輪ちゃんが不安がるじゃない。』

『すみません。仏霊会は、脱獄の件もあって戦力は出してくれないという事ですか?』

『うん。たぶん。信様も待機命令が出ているから。』

『その命令は、破ったら駄目なのかしら?』

『それは...あの...』

『無理ですね。火輪様には立場があります。全てを捨てるのであれば、可能でしょうけど。今行けるのは俺ぐらいでしょう。そう思って、ここへ来たんでしょう?』

『ヤバタ。ごめん。』

ヤバタは、火輪の行動を察しているのであった。それも、ヤバタが一時でも、仏霊会に所属していたからであった。仏霊会は、完全な縦社会であった。それに、五霊葬という有力な立場が勝手な行動をすれば、その後始末は、そこに所属しているものが行わなければならないのだ。

火輪には、その一角を担う役割があるので今回ばかりは動けないのであった。


『ふー、何時になっても、悲しいわね。時代は、どんどん変わっていくのに、変わらないといけない事は変化がないなんて。仮にも人の命やその後に関わる機関なのにね。』

薫子さんは、人より長く生きているので色々と見てきたものも多く、嘆くのであった。

『見ないうちに、ひーちゃんも良い男になったわね。急がないと、いけないのでしょう?それなら、私に任せなさい。』

薫子さんは、メイドの二人を呼び出し、どこかに電話を掛けさせるのであった。

そうして、ゴニョゴニョと簡単に言伝をいれると、ニッコリとほほ笑むのであった。

『ひーちゃんも火輪ちゃんも、今日は休みなさい。明日の早朝に準備が整うようだから。そうだ。夕食がまだでしょう!?元気になるには、きちんとご飯を食べないとね。』


その夜は、薫子さんの言う通りにして食事をとり、十分な睡眠をとるのであった。

そして、早朝になると黒いリムジンが迎えに来るのであった。そこから、普段いかないようなオフィス街へ移動するのであった。その最上階に連れていかれると、そこにはヘリが待ち受けていた。


『お姉さまからの言伝です。』

メイドの1人であるカイトは、そう言い手紙を渡すのであった。

手紙には、(必ず、皆で戻ってきなさい。美味しい料理を用意してまっているからね。)と書いてあり、薫子さんらしい激であった。

『ヤバタ、後はお願い。』

『任せてくださいよ。夕食を皆で食べましょう。』

ヤバタは、ヘリに乗り込み、勾玉の巫女の元へ向かうのであった。


ヤバタは、昨日までのドナドナ気分ではなく、今はアルマゲドンへ向かう気持ちになっていた。実に誇らしい気分であった。

(ヘリなら直ぐに着くだろう。渋滞もないしな。合流も間に合うだろ。)

確かに、勾玉の巫女の所には、早く着いた。だが、すでにクズ達は出ていた後だったのだ。

勾玉の巫女から作戦の内容を聞き、ヤバタは急いで後を追いかけたのであった。





そして、現在に戻り。


ヤバタが窮地を救ってくれたのであった。この男は、毎回やってくれるのである。ずれてはいるが、必ずやってくれるのであった。


アーノルド=ヴェルナーは、まだ何が起こったのか理解出来ていなかった。それも、しょうがないのであった。ヴェルナーは、元々の性格が慎重であり、冷静だ。しかし、今回は、予想外であった。相棒であり、友のベルゼも抑えられ、完全に殺ったと思った奴も仕留め損なうのであった。ここ、何十年も経験していなかった事が起きてしまったからだ。そのため、一瞬だが隙を作ってしまったのだ。


そして、それを見逃さないのであった。それは、野生の感!?いや、死を身近に感じたからであろう。真冬は、無意識にヴェルナーを切り裂くのであった。ヤバタのおかげで、能力は無効化されていた。しかし、それでも、普通の人なら問題なく切り裂けるのであった。

俺は、返り血で血まみれになっているが、真冬が無事で良かったと思うのであった。気がつけば、真冬を抱いていた。そして、温もりを感じ、安心するのであった。

『良かった。本当に。』

『にゃ。みんにゃが見てるの。それに、血がついちゃうのにゃ。』

真冬は、照れて恥ずかしそうにするのであった。


ヴェルナーは、もう虫の息であった。しかし、傷は、即死に至らしめるまで、深くはなかった。

いや、ヴェルナーの執念でもあったかもしれない。この傷を、与えた者だけでも道連れにする気であった。余力は少ないが、手には持ち慣れたナイフが握られているのは分かっていた。

この距離この瞬間であれば、確実に殺せる。それは、ヴェルナーにとっては造作ではなかった。


その時、朽名氏さんが叫ぶのであった。

『まだ、終わっていません。避けてください。』

『ぐぉおおおぉぉーーー。』

最後の一太刀を浴びせにいくのであった。真冬の背中は、がら空きであった。

グサッ。ズバッ!!!!

クズは、抱いていた真冬を庇い、ヴェルナーと向き合うのであった。

その瞬間、二人の時は止まったように見えた。そして、先に動きを見せたのは、ヴェルナーであった。

彼は、ゆっくりと崩れ落ちるのであった。クズは、間一髪であったが真冬を守り、憑依獣化により一太刀を報いたのであった。しかし、防衛に使った左腕には、ヴェルナーのナイフにより手から前腕にかけて大きく切り裂かれたいた。

『道生!!』

真冬は、声を上げるのであった。

『大丈夫だよ。それよりも、ヴェルナーは?』

クズの怪我は、大きく切られていたはずだったが、何故か止血され、傷も徐々に塞がれていた。


『もう、平気でしょう。後は、暴食をこのまま抑えておけば、問題ないと考えられます。』

『ちょっと、待ってろ。念のため、俺が調べておくよ。』

ヤバタが、ヴェルナーへ能力をかけつつ、近寄るのであった。しかし、その心配も取り越し苦労であった。ヴェルナーは、すでに息をしていなかったのだ。

『大丈夫だ。終わったんだな。』

バサッ。

その時であった勾玉を使い、悪食こと暴食のベルゼブブを抑えていた奈菜が倒れるのであった。

すぐに、ヤバタが駆け寄り、意識を確認するが、問題ないようであった。

奈菜は、知らない所で力を摩耗していたようだ。どうやら、心に反応したため、クズが切られた事で過度に力を発してしまったようだ。クズの怪我が軽くなっていたのは、どうやら勾玉の力のおかげであった。

しかし、奈菜が、力を使い果たしてしまったので、暴食が姿を現すのであった。

そのため、全員が警戒をするのであった。


『ヴェルナー、死んじゃったのかい?君とは、まだ一緒に楽しみたかったのに。人間は、すぐに壊れちゃうな。これも運命か。それじゃあ、僕は行くよ。また、友達になってくれる人を探しにさ。』

暴食のベルゼブブは、そう1人で語るのであった。彼からは、悪意は感じられなかった。俺は咄嗟に話しかけているのであった。

『あの...君たちは、一体何なんだ?』

俺は、これまで大罪の悪魔を見てきたが、どれも個性や性格があり、人に近い気がしてならなかったのだ。そして、目の前にいる暴食のベルゼブブは、少年にしか見えないのであった。


『君も変な事を聞くね。僕の友達を殺しておいてさ。でも、昔から人間は殺しあってきたからね。過ぎた事をとやかく言う事はないんだよ。僕たちは、君が思っている通りだよ。人であり、悪魔でもある。いや、少し違うな、人であったし、悪魔でもあったかな。それも、どうでもいい話だね。

僕は、もう行くよ。また、負けちゃったしさ。大人しくするよ。』

暴食のベルゼブブは、消え去るのであった。

(負けた??どう意味なんだ?それに、ベルゼブブの話だと....。)


『にゃんだか、前に見た嫉妬と憤怒とは、雰囲気が違ったのにゃ。禍々しさがにゃかったの。』

『そうだな。たぶん、それこそ人であった時の名残じゃないか。それに、何故か異形の姿ではなかったしな。』

俺と真冬は、そう話をし、安堵するのであった。これで、ようやく終わったと。


すると、朽名氏さんは、電話をかけ始めるのあった。


『近郷さんでしょうか。アーノルド=ヴェルナーは、死亡。暴食は消えました。

約束通り、五霊葬の派遣をお願いします。アーノルド=ヴェルナーの亡骸は、どうしますか?

はい。わかりました。』

電話をし終えると、ヴェルナーの方へ歩き出すのであった。そうして、亡骸から血液を取り出しと、心臓へ杭を打つのであった。朽名氏さんは、平然と、それを行うのであった。


『一体、何をしているんですか?』

『あぁー、これですか。サンプルですよ。能力者の研究に回します。それと、魂が肉体から離れないように、閉じ込めたんです。倫理的には、問題があるかもしれませんが、この人が起こした罪を考えれば、しょうがないと思います。』

俺は、背筋がゾッとするのであった。言いたいことは分かるのであった。

違和感を感じたのは朽名氏さんであった。これまでと違い、冷徹な声であり、表情も別人に見えてしまうほどであった。

そこから、俺達は、勾玉の巫女の元へと報告へ来ていたのであった。

勾玉の巫女の方も、悪食が去った事を感じていたので、無事に終えていた事は分かっていたようであった。そして、リンの様子は、変わらずに酒漬けの毎日のようであった。


『これで、奈菜が日常に戻っても平気ですね?』

『後は、霊力が戻れば、問題はない。苦労をかけて、すまなかったな。とりあえずの、難は逃れたぞ。それと、預けた八尺瓊勾玉は返してもらうぞ。』

そう言い、勾玉の巫女は、回収をするのであった。


『現在、五霊葬が殺された土地神様の元へ向かっています。数日中には、自然豊かになるでしょう。ですが、新たな土地神様はいかがしますか?』

『私の霊力が戻れば、私が管理する故に問題はないぞ。後、数十年もすれば、新たに土地神様も生まれて来るであろう。』

朽名氏さんは、残った業務を冷静にこなすのであった。どうやら、普段の彼女に戻ったようであった。


『リンは、まだ必要かと思いますんで、置いていきますね。それじゃあ、俺らも戻りますか?』

『道生。待って。私は、ここに残るよ。勾玉の巫女様。私も皆に守ってもらうだけでなく、守りたいと思っています。巫女には、なれませんが、私に皆のような力を授けてくれませんか?』

『おい。何言ってんだよ。もう、関わらない方がいいだろ。』

『道生だって、関わっているじゃない。それに、私の自由でしょ。』

(昔から、頑固な所があったな。絶対に、曲げないんだよな。)


『構わないぞ。それでは、力の使い方を教えよう。それに、授けるも何も、そのうちに能力が芽生えるであろう。其方の身体は、神具の触媒として使用したからな。

もし、元の状態に戻りたいのであれば、可能なのだぞ。』

『構いません。よろしくお願いします。』


勾玉の巫女は、そこから霊力について話すのであった。

神器を使用するために、奈菜の身体の霊流力や霊容量は拡げられていた。そのため、このままにしておくと霊力は以前より高まり、能力が発現するとの事だ。能力は、その人の個性や性格で変わってくるのであった。しかし、例外もあった。

一部の者は、複数の能力を保有しており、それを付与する事も可能との事であった。

ヤバタや奈菜、朽名氏さんは、先天的に素質があるようで、個々に何かしらのタイミングで芽生えたタイプなのだ。しかし、素質があっても、そこから発現するかどうかは分からないそうだ。大部分の人は、気が付かずに一生を終える方が多いようだ。

そして、クズの場合は、後天性であった。本来は、素質はないとの事であった。ただ、死にかけて、生死をさまよう経験をする事で目覚める事が希にあるそうだ。

ここにきて、麻雀で死にかけた事は、恥ずかしくて言えないのであった。


『興味深い話ですね。私も、しばらく此処に残らしてもらっても宜しいでしょうか?』

そして、勾玉の巫女から了承を得るのであった。


結局、そこから帰るのは、ヤバタと真冬と俺の3人であった。そして、霊力が回復したら後日に、遣いをだし、リンと奈菜を送ってくれるようであるようだ。朽名氏さんは、有給が切れたら、自分で帰宅するから構わないとの事だ。

俺達は、ようやく自分たちの家に着くのであった。たかが数日であったが、何だか懐かしく思えてしまうのであった。

火輪に、そこで連絡をいれたが、どうやら忙しいようだ。仏霊会から、全員が無事な事は聞いているようで、元気に飛び出していったっと薫子さんが教えてくれたのであった。

どうやら、転鏡を返すのは後になりそうである。

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