ヤバタの覚悟
気が付くと、見た事がある天井であった。
隣には、真冬が座っており、穂乃果先生を警戒しているのであった。
『コマリは!?』
『今は、拘束しているの。それと、クズさんには後で、はにゃしがあるの。先ずは、みんにゃの所へ行き、助ける方法を教えて欲しいのにゃ。』
そう言われ、身体が重かったが、コマリが拘束されている所まで向うのであった。
そこには、すでに火輪とヤバタがいた。
今回、火輪が休めっと言っても、ヤバタは、聞く耳を持たなかったそうだ。
そして、ヤバタの手には、ヌイグルミが握られていた。おそらく、俺が寝ている間に、レコーダーを聞いたのであろう。
『クズ。起きたのか。早々に悪いが、方法を教えてくれないか。』
『あぁ。それを伝えにきたんだよ。でも、信さんも連れてこないと、解決できないんだ。』
『そうか...。』
『先輩。そしたら、私が呼んでくるよ。』
火輪が気を使い、信さんを呼びに行ってくれるのであった。
今現在、コマリとユリア=ダルクは、地下で拘束されている。霊牢の陣により、霊力を吸い取られ能力を使えなくしているようだ。コマリは、その上、暴れないように拘束されているのであった。
忘れていたが、あのボスの言う通りになっていた。仏霊会での扱いは、疑いが一応、晴れているようであるが、信さんとともに監視が付けられている状態ではあったが。
しばらく、待つと火輪が信さんを車イスに乗せて連れて来るのであった。別れてから、拷問にあったのは、言うまでもなかった。
俺は、申し訳ないと思ってしまったが、気にせんでいいと、言ってもらえた事がせめてもの救いであった。
皆が集まったので俺は、皆にコマリを助ける方法を伝えるのであった。
しかし、1つ問題が出てきてしまった。
牢屋に閉じ込められているユリア=ダルクには、会う事が出来ない事だった。まだ、俺と信さんは完全に疑いが晴れてはいないらしく、面会は謝絶となっていた。
そのため、信さんの模倣で、分離の能力が使えなくなってしまったのだ。
模倣という能力は、条件があるようだ。
相手の能力を見て、理解しなければならないというのが絶対条件のようだ。また、あくまで、模倣のため、オリジナルより劣ってしまうが、そこは霊力コントロールで補正はできるようだ。まぁー、真似はできるが、燃費が悪いようなのだ。
そのため、直ぐには、コマリを助けれないと思ったが、信さんが別の能力で出来るかもしれんと言ってくれたのだった。それも、また条件があるのだが...。
模倣で使用する代わりの能力は、消去であった。
しかし、記憶の分離と消去だと効果が大きく変わって来るのであった。分離であれば、今回の事件の記憶だけを分離すれば良いだけの話であった。
だが、消去は違った。完全に記憶からの消去。何が言いたいかというと、今回の事件だけでなく、そこに関与するものの全て消去してしまう事だった。つまり、今回の事件に関わっている火輪や俺だけでなく、大切なヤバタとの記憶さえも。
別の方法はないか、俺はAIを使用したが、答えは出なかった、出たのは、吐血だけであった。俺は、まだ霊力が回復していないようだ。
『クズ。やめろよ。良いじゃないか。それで、コマリが助かるなら。俺は、もう巻き込みたくはない。』
『コマリの...。コマリの気持ちはどうすんだよ。』
『いいんだよ。もう受け取ったから』
ヤバタは、手のヌイグルミを見ながら、そう言うのであった。
ヤバタの覚悟は、固いようなので、皆は何も言う事は出来なかった。
そのため、俺と真冬は、すぐにヤバタに浄化の紐と、理性の腕紐を渡したのであった。
『クズ。ありがとな。』
ヤバタは、そう言い、すぐにコマリに渡した紐を付けるのであった。
それと同時に、浄化の紐が光だし、コマリの身体を包むのであった。そこから、アラクネのような身体から元の小柄な身体へ戻るのであった。そして、浄化の紐は消滅してしまったのであった。
元通りになったコマリが倒れそうになるのを、ヤバタは、優しく支えるのであった。
『ん、ん。あれ、私は。ヤバタ?無事だっ....。』
そこで、すかさず信さんが消去を行ったのであった。これは、皆で承知の上であった。意識を取り戻すと、ともにフラッシュバックしてしまう事を避けたのだった。
『あなたは...。誰?あれ....。』
すでに、ヤバタという男の記憶は消し去られてしまった。もう、二度と思い出すことはないであろう。
しかし、コマリの目には、涙が溜まり、無意識に流れるのであった。
その後、すぐにコマリは、眠ってしまうのであった。信さんが、そのまま、催眠の模倣をかけたためであった。
『信様、ありがとうございます。』
『本当に、良かったのか。山端よ。』
『良いんですよ。もう、住む世界が違うんですから。夢だと思ってくれた方がいいんです。』
そうして、コマリの件は、落ち着いたのであった。
その後、コマリは、仏霊会の表の病院へ搬送された。数日、行方不明だったのは、記憶喪失で身元が分からない事になっていた。事後処理は、仏霊会が全て行ったので、明るみに出る事はなかったのであった。