これまでとそれから
お風呂から上がり、湯冷ましをしていた。
クズは、牛乳を飲み終わると、マッサージチェアがあるので、しばらく寛ぐことにした。
気が付くと、ほんの30分足らずであったが寝落ちをしていたようであった。
起き上がると、そこには浴衣姿の真冬と火輪がいた。
そして、床にはベタに鼻血を出して倒れているヤバタがいるのであった。
そこから、火輪には、例の事で説教をくらった。
俺は、あの時の真冬の反応の意味が分かり、今頃になり気まずくなるのであった。
そうして、俺は真冬に念話で話をするのであった。
『そうゆう事なら、あの...お互いを良く知ってからじゃなくて...なんて言えばいいのか。
とりあえず、撫し付けに、そんな事をいって、ごめん。』
『私は、大丈夫です。クズさんが望むなら....。』
『アハハ...。』
真冬は、頬を赤らませながら見つめて来るのであった。
俺は、笑って誤魔化すしかなかったのだ。なんとも、情けない話である。
そこから、食事を摂ったりし、時間が経つと館内放送で、皆が呼び出されるのであった。
霊能長室へ、俺たちは集まるのであった。
『慌ただしくて、すまいないのー。今回の件について、儂は責任が追及され、辞任されるであろう。そして、クズ君。巻き込んでしまって、すまない。』
『いえ、むしろ、俺があんな物をここに持ってこなければ...。』
『気にせんでいい。儂が調べようとしたのが悪いんのじゃ。
仕込んだ組織が、一枚上手だったのじゃ。あのような術具が出るのは、おそらく裏の組織アビスの可能性が高い。
お主が、目を付けられたのは、おそらくピオラの件の報復と牽制じゃ。』
『それにしても、報復のためだけに、あそこまで爆発する術具を用意するもんかね。悪いけどクズだけなら、大掛かりの用意なんて必要ないだろ。』
ヤバタが、冷静に答えるのであった。
『確かにそうだな。おそらく、俺があの黒い箱をここに持ってくる事さえ想定されていたのかもしれない。持ってこなくても、俺が死ぬだけで、アビスという組織には何も問題はないだろうし。』
そして、俺が黒い箱を持っていた経緯と、コマリの件について、皆に語るのであった。
『はぁ!?おい。コマリが見つかっていないだと。こんな事を仕掛ける組織が、関わっているのにか。クズ...お前、何やってんだよ。』
ヤバタが、声を語気を荒げるのであった。
『ヤバタさん、静かにして。それに、先輩のせいだけではないでしょ。』
『あぁー、ごめん。クズ。元はといえば、俺が巻き込んじまった。俺がクリスに近づかなければ....。』
『今、そこを気にしても、しょうがないでしょ。これから、どうするかが問題なの。コマリ先輩も、今も逃げていて無事かもしれないんだから。』
火輪が、ヤバタを落ち着かせ、話を戻すのであった。
信さんは、その間、何かを考えているようであった、そして、何か思いついたのか話出すのであった。
『それでは、ずっと。敵の思うがままだった...という事だの。
あらかじめ、お主がそう動くように仕掛けられていたのか...いや、読まれていたのであろう。敵に、相当、頭がキレる奴がいるようじゃの。むしろ、まづい事になった。相手は、もう動いているやもしれんのじゃ。』
『どういう事ですか?』
火輪は、問いかけるのであった。
『これから、儂の辞任と、おそらく今回の主犯としてクズ君...お主が拘束される可能性があるのじゃ。
関係している人物で、部外者はお主だけだの。良くも悪くも、証拠が出にくい霊能者の処理は、この仏霊会が行っている。責任を、お主に擦り付けるのは、容易じゃ。』
『そんな...。俺が...。今、拘束される訳には、行かないんです。コマリを助け出さないと...。』
『先輩、落ち着いて。信様は、クズ先輩を疑っている訳ではないんですようね!?』
『もちろんじゃ。長年、生きていれば分かるものがある。ゆえに、これから霊能長として最後の仕事を命ずる。
火輪、これから、五霊葬が収集されるであろう。お主も、その一人として役目を果たしつつ、お前には、アビスと仏霊会を両方探って欲しいのじゃ。
山端、お主の贖罪は今回の働きで、終わりじゃ。少し早いが、自由を与える。クズ君と共に、友人を助けてやれ。鍛錬を怠るな。
守、お前は、ここに残り、復旧を手伝い、山端が安心して動けるように朱美を守ってやるのじゃ。
最後に、ここから脱獄した3人も、遅かれ早かれ、外で騒ぎを起こすであろう。
どこかで、出会う可能性がある。念のため、奴らの事を教えておく。
まず、4番からじゃ。儂の姉 神楽 心 傲慢の主じゃ。
能力は、強奪。
今は、前に殺して奪った能力 サイコキネシスを主に使用している。以前は、優しい性格であったが、儂のせいでああなってしまった。
そして、対峙するときは、霊力や寿命なども奪うから、気を付けるのじゃ。
次に、7番 本田 まなみ (ほんだ まなみ) 色欲の主じゃ。
能力は、言霊。
元々、官能小説家で、執筆のため、能力を駆使していたのじゃ。それが、段々と狂気を帯びていき、非道に走ったのじゃ。
最後に、9番 アーノルド=ヴェルナー 暴食の主じゃ。
能力は屈折。
本人は、美食家と名乗っているが、周りから(人食いヴェル)と呼ばれておった。国際指名手配犯であった。
たまたま、日本に来ていた所を捕らえられたのじゃ。これで、以上じゃ。
おっと、忘れ取った。そこの猫の嬢ちゃん...真冬ちゃんだったかの。お主には、これを渡しておく。これがあれば、完全に獣化しても理性を失う事はないの。』
真冬は、そう言われミサンガのような腕紐を受け取り、さっそく身につけるのであった。
『ん!?信さん、それって、これに似てるんですが...。』
俺は、千切れた破邪の紐を、信さんに見せるのであった。
『ほほぉー、お主、これをどこで?まぁーよい。そのままじゃ、使えないじゃろ。貸してみなさい。』
俺は、破邪の紐を渡すと、信さんが霊力で紡いてくれるのであった。
『ほい。前ほどの効果はないが、身につけている者を一度だが、災いから浄化してくれるじゃろ。』
『ありがとうございます。』
(まー破邪とまでは言わなくても、1回は守ってくれるんだな。あの時に、売らなくて良かったな。)
俺は、そう思いながら、身につけるのであった。
そうこうしていると、霊能長室の扉がトンットンットンとノックされるのであった。
『どうやら、時間のようじゃ。火輪、クズ君と山端を何処か安全な所へ連れて行きなさい。』
『はい。』
火輪は、転鏡を使用し、俺たちを連れて行くのであった。
その直後、霊能長室には、数人の警備の者達と次期霊能長候補である近郷 勇が雪崩れ込んできた。
『神楽 信。及び、九頭 道生の二人を、仏霊会への建造物の破壊・脱獄の手助けをした容疑で拘束する。』
『ヒョッヒョッヒョ。もうここには、儂しかおらんぞ。おっと、守もおったな。』
『クソが。拘束しろ。』
そうして、神楽 信は、連行されるのであった。