デズロは真実をまだ語らない
「大丈夫ですか?動けないです?」
ん?お迎えの天使の声かな?
あまりにお腹が空き過ぎて幻聴が聴こえているのかもしれないね?
グキュルルルルルルル〜
「・・・お腹、空いてるんですか?」
「・・・あれ?君は人間かな?」
「はい!ちゃんと手も足も二本ずつ生えてますよ?」
君、中々面白い表現をする子だね?僕と気が合いそうだよ。
「立てます?あ?無理です?じゃあ引きずって行きますね?」
うん。踵が引きずられて火を吹きそうなくらい擦れてるけど大丈夫だよ?
それにしてもこの子の姿。
この国の子じゃなさそうだね?隣のお家の子かな?
「はい。ここなら誰も来ないので、私のお昼用に作ってきたんですけど良かったらどうぞ?」
ふぁ!!美味しそうなサンドイッチがギッシリと詰められた籠が!!美味そうだね!
「こっちは卵サンドでこちらは厚切りベーコンとトマトとレタス、もう一つはデザート用に生クリームと煮詰めたベリーを挟んであります!お茶いります?」
「ふふぁはい!」
なんだろう。ここはやはり天国なのかな?さっきまで腹減りで倒れてたはずなんだけど?天使が舞い降りたの?それに、このサンドイッチ・・・・・・。
「ふはぁー!美味しかったぁ?最っっ高!コレ君が作ったの?」
「・・・・はい。美味しかったです?」
「うん!今まで食べたサンドイッチの中で一番美味しかった!」
あれ?何でそんな不思議そうな顔するの?本心だよ?
「それは良かったです。私あまり料理を褒められた事がないので嬉しいです!」
え?嘘でしょ?お腹が空いているのを差し引いてもかなりレベルが高い味だと思うよ?隣の国の住民は味音痴ばかりなのかな?
「いいなぁ。僕、君の料理毎日食べたい。あ、プロポーズじゃないよ?」
「ありがとうございます。でもそれは無理そうですね」
サラリと流したね?
だよねぇ。君どう見ても敵国の兵士だもんね?
「おじさんは魔術師さんか何かですか?」
おじ!!おじさ・・・・!無垢の刃が僕の繊細な心臓を的確に貫きましたよ?お嬢ちゃん?
「僕はデズロだよ?そうなの、僕魔術師なんだ。君は?」
「ティファです。敵国の騎士です!」
うん!い〜い返事だね!でも相手が僕じゃなかったら速攻で捕獲されてるよ?気をつけて?ティファ、ティファね?
「君は何で騎士なの?見る限りあまり向いてなさそうだけど?」
「そうですか?うちの国の人達は百年に一度の逸材だって言ってますよ?私はこの仕事あまり好きではないんですけど・・・」
だよねぇ?
この子明らかにヤル気ないもんね?もしかして捕まえて欲しかったのかな?
「もしかして、何か理由があって騎士になったの?」
「はい。最初はお金欲しさからでした」
ん?お金?何故それで兵士?
「大規模な自然災害が起きて物価が急に上がってしまいまして、生活するのが苦しくなりました。私の実家は薬師なんですが、私の下には妹がおりまして、その子がとても優秀な薬師なんですよ。それに比べて私は全く才能が無く家に居ても役に立たないので、実家を出て食いっぱぐれない兵士になる事にしたんです」
ほうほう?成る程。国がそんな状態ならしょうがないね?
でも、そうなんだ?薬師の子供の、ティファ?
「で。気付いたら騎士にまで昇格してまして」
君、全ての過程をあらゆる手段で吹っ飛ばしたね?
説明がめんどくさかったのかな?まぁいいけどね。
「そしたら、超キモい王子に脅迫まがいなプロポーズを受けまして」
それはあの国の第一王子の事かな?
アイツは確かにヤバイよね。
子供の時にあの子に会ったことあるけど、その頃から既に才能を開花させつつあったよ?
勿論残念な方のだけどね?
「私を兵器として使いたい人と、私を邪魔で消したい人の間に挟まれ、料理を作る隙も中々作れなくて。もう辞めようかと考えています」
君、そんなぽや顔で結構苦労人なんだね?まだ若いのに可哀想。それに僕、可愛い女の子にはとても弱いんだ。
「そうなんだね?じゃあ近いうちにその国から逃げておいで」
「え?無理ですよ〜あの人達、普段無能なのに私の警備にだけは力を入れまくりなんです。流石の私もアレをくぐり抜けるのは無理です」
そうかな?現に今君の周りには君を見張る人間はいないよ?僕が結界を張って外から僕達が見えないようにしているからね?
「大丈夫。知ってる?あの国は満月の夜になると、ある一定期間魔力が使えなくなるんだ」
「え?」
「その時、君の警護は一瞬緩くなる。その隙にこちらの国まで逃げておいで?上手くいけば君をこの国の料理人にしてあげられるかもしれないよ?」
おや?即答すると思ったのに迷ってるね?まぁいいさ、僕はあくまで偶々ここで君と出会って君に助けてもらった通行人だ。決めるのは君自身だからね?
「おじ、デズロさん?」
「ごめんね?僕、これでもこの国の最重要機密なんだ。だから、少しだけ記憶をイジるけど、君に必要な物はちゃんと残しておくからね?」
でも君とはまたきっと再会できると思うよ?
だって、君の眼はまだ死んでないもの。
それに、まさかとは思ったけど、こんな所で出会うなんて運命感じちゃうなぁ?僕。
「大丈夫。君が無事ここまで逃げて来られたら、その時こそ僕が君の願いを叶えてあげる。その時まで少しだけおやすみ?」
取り敢えずティファの両親には痛〜いお仕置きを考えておかないとね?僕の大事な娘を無下に扱った報いをね?




