ベロニカはティファが嫌いである
出会った時からあの女が大嫌いだったわ。
「よろしくティファ。女騎士同士仲良くしましょ?」
「はぁ。どうも」
異例の速さで平民のただの兵士から騎士にまで成り上がり、あっという間にその強さで、カスバール国の最強の戦士になった女性。彼女の存在を知った時、私はそんな彼女に、とても強く憧れた。どんな人間か知らなかったからよ!
「何故とどめを刺さないの!あれは敵よ!」
「え?でもこの国を奪おうと勝手に襲ってるのは私達ですよね?殺す必要ないのでは?」
私が貴方の下にたどり着くまで、どれ程血を吐くような努力を積み重ねて来たかわかる?私は騎士になる為にありとあらゆる物を犠牲にしてきた。
「お前では駄目だ。ティファを連れてこい」
「何故でしょうか?」
ティファ。
「何故?そんな事も分からない役立たずだからだよ。ベロニカ。私は、無能な人間が嫌いなんだ」
私は、役立たずなんかじゃないわ。
「ベロニカ。私は明日この国を出ようと思います。ベロニカにはお世話になりましたから。あ、これ良かったら」
「・・・・・隣の国に逃げるなら近道を教えてあげる。ちょっと危険だけど王子の監視をずっと撒くのはむずかしいでしょ?」
「え?いえ、そんな事したらベロニカが・・・・」
「勿論私も一緒に逃げるわよ?うんざりしてたの私も」
なんなの、その間抜けな顔は。
会ってみて本当に失望したわ。
憧れて必死になって追いかけて来た。それなのに、実際に会ってみたら敵にとどめも刺さない様なヘタレぽや顔女だったなんてね?
「ベロニカ。ティファが逃げ出せない様にちゃんと監視するんだ。無能なお前でもそれぐらいは出来るだろう?」
・・・・・・・・・・・。
「おいベロニカ!ちゃんと手筈通りに崖まで追い詰めろよ?ヘトヘトにさせて抵抗出来なくなってから皆で捕まえるんだからな!!」
・・・・・・・・・・・・。
「あ!それね?新作なんですよ?パンの間にハムとかではなく生クリームと果物が挟まってるんです!斬新じゃありません?」
斬新じゃありません?じゃねーーよ!!
逃亡前日に呑気にこんなもん作ってんじゃねーよ!ぽや女がぁぁぁぁ!!私が今どんな状態か全然理解してないでしょ?全部お前のせいだから!!
どうすんの?私どうなっちゃうの?
「ベロニカ。敵が複数追って来てます。貴方は先に逃げて下さい。私が引きつけますので!(キリッ)」
キリッじゃねーよ!
引きつけるもなにも皆お前狙いだよ。
誰も私なんか追って来てないんだよ!!(涙)
「ティファ。動くなよ?動いたらベロニカが死ぬぞ」
チキショウ。どいつもこいつも勝手な事を・・・。
「何で、見捨てて逃げなかった?あんたなら逃げられた筈でしょ?」
こんな馬鹿に勝てないなんて悔しい。
「うーーーん。でも、そうしたらベロニカ殺されちゃいますし」
「私も騎士の端くれよ。そんな簡単に殺されたりしない」
私が強かったら、こんな女に振り回されたりしなかったのに。
「え?ベロニカはか弱い女の子でしょ?ちょっと夢見がち過ぎてドン引きですけど?騎士なんて向いてないです!」
ブチッ・・・・・・・・コノヤロウ。
「うっさい馬鹿女!!死んどけ!」
「ふぇ?」
「な!?おい!お前何を・・・・」
ハイハイこんな断崖絶壁から突き落とされたらまず、助からないわね?ザマァみろ!死んで一回今迄の自分の行い反省してこいや!!
「どいつもこいつも馬鹿にして!この機会に纏めて粛清だコラァァァァ!!」
はい!回想終了。
お初にお目にかかります。
私、カスバール国騎士のベロニカと申します。あ、元ね?
「お嬢さんもうすぐサンチコアに入るよ?仕事が見つかるといいねぇ?」
ええ、本当に。
ここで仕事を見つけられなかったら本当にヤバイわ。
所持金も底を尽きそうだし、ここで本腰を入れてお金を稼がないと・・・。追っ手を避けながら仕事を探すのって結構大変なのよね。現在就職活動真っ只中の皆様、心中お察し致します。
「そういえば、あの街の兵士の宿舎で家事手伝いの募集をしていたよ?中々人が来ないと言っていたから、もしかしたら雇ってもらえるかもね?」
へぇ?それなら雇ってもらえるかしら?
中での仕事なら外にあまり出ないしね?
変装しているからこの国の兵士にも正体はバレない筈だわ。着いたらそこに行ってみよう!
「お?噂をすれば、おーい!フィクスさん!」
あら?もしかして仕事を紹介してくれるのかしら?
この人本当親切ね?っていうかこの国の人間って皆お人好し過ぎではないかしら?逆に心配になるんだけど?
「あれ?何?今日は人も運んで来たのか?」
「途中で拾って来たのさ。仕事を探しにこの街に向かってたから、旅は道連れだろ?」
「へぇ?あ。もしかしてうちの宿舎か?」
何かしら?この人ただの兵士にしてはやけに身綺麗というか。気品が感じられるのだけど?
「そうなんだよ。人が寄り付かなくて困ってたろ?一度試しに雇ってみたらどうだ?」
「そうだね。唯一雇ってる子も女の子だし、丁度良いかも。君、名前は?」
「ベロニカです。雇って貰えるんですか?」
「採用するかどうかは上司が決めるけど、多分大丈夫じゃないかな?俺はフィクス、その宿舎で暮らしてるんだ」
これは、幸先良いんじゃない?
今迄、ロクな事が無かった私をきっと神様が見ていてくれたに違いないわ!私はこれをきっかけに人生をやり直す!そして今度こそ幸せになってやるわ!
「君は一般的な家事は出来るのかな?」
「はい。どんな内容か聞いてみないとハッキリは答えられませんが、恐らく大丈夫かと」
あら?何だかとっても良い香りがするわね・・・・・・でも何かしら?何だか、胸騒ぎがするんだけど?
気のせいよね?
「お?今日はビーフシチューかな?うちの料理人はとても腕がいいんだよ?紹介する」
「あんだぁ?フィクス?ナンパしてきたのか?」
「何でだよ!ギャド、求職者だよ!」
「え?そうなんですか?」
・・・・・え?
「ん?あれ?ベロニカ?」
「え?何?ティファの知り合い?」
あはは。そんな馬鹿な、いくらなんでもそんな筈・・・。
「はい!私の騎士仲間です!」
「「「え?」」」
・・・・・・・神よ。こんなのあんまりです!
なんでこんな広い国でバッタリ遭遇するの!?
「え?君、騎士なの?」
「・・・・・・・。」
っていうかやっぱりというか何と言うか。
やっぱあんた無事だったのね。
流石ゴキブリ並みのしぶとさだわ。化け物め。
「えーーーっとアレ?じゃあ、ティファを裏切った仲間って・・・」
「はい!皆さんに紹介しますね?彼女はベロニカ!私を情け容赦なく断崖絶壁から突き落とした私の騎士仲間です!!」
ーーーやっぱりあの時確実に殺しとくんだったわ!(白目)




