閑話その2
「ベロニカ。今日暇?」
「毎日暇よ。貴方達のお陰でね?」
はい。嫌味のつもりだね?大丈夫、もう慣れた。
毎日医療所に連れてかれて調べられたらまぁ、ご機嫌も悪くなるだろうけど、そこは我慢してね?君に死なれると困るからね?
「今日は馬車を出すから遠出しないか?夏にしか見れない物があるんだよ。ベロニカ見たことないだろ?」
「いいわよ別に。ティファでも誘えば?」
「ティファはハイトと出掛けてるよ。それに多分誘っても来ないんじゃないか?」
たまには宿舎から出て気分を変えないと。
もしかしたら、暫く側に居られなくなるかもしれないし。
「フィクス。貴方貴族のご子息よね?変な噂が立つわよ?女を連れ回すなんて、軽率な行動よ。やめておきなさいよ」
・・・・ガードが固い。
ある意味ティファより鉄壁だ。俺だからか?他の奴に頼めばいいのか?それは・・・・ちょっとやだな。ん?ラット?なんだお前。仕事ちゃんと終わったのか?
「ベロニカ。お前本当に可愛くねぇのな?アレを見てみろ」
「おーい!エリスちゃーん!一緒に買い物行こうよ!」
「え〜?どうしようかしら?私お出かけするような服持ってないしぃ?」
「大丈夫だよ!俺が買ってあげるからさぁ?」
「きゃー!やったー!行く行くぅ!」
うん。そうそう。
確かこの辺に、メルロー達が隠してるアレがあったな。
じゃあ一本は、ベロニカ使う?あ、そう?
スパパーーーーーン!!
「行く行くぅ!じゃないわよ!阿呆!!」
「お前はパトロンか!!」
風紀を乱す輩はハリセンでしばき倒す!!
コイツらが来てから宿舎の風紀が乱れた気がする。
特にエリス!!お前いい加減にしろ。
「金が無いわけじゃないだろ?欲しいものがあるなら自分の金を使え」
「何でよ?くれるって言うから貰ってるだけよ。ケーチ!」
はぁ。疲れる。子供の相手、疲れる。
保護者は今、不在だからなぁ。俺達で何とかしないといけないが。これが、凄く、面倒くさい!
「まだ今日の仕事残ってるだろ?帰りにアメ買ってきてやるから。お前が好きな奴」
「え!じゃあ私、苺とメロンで!」
本当に図々しい奴だな。ちゃっかりしてるというか。
「ラットは?」
「俺はいらねぇよ。聞くな」
「じゃ、行こうベロニカ」
「え?ちょっと?」
今から行けばまだ間に合うな。
あまり長いと体に負担を掛けるから気をつけないと。
「ほら、手を貸して」
「一人で乗れるわよ!!必要ないっ・・・キャア!!」
「馬車を出してくれ」
「はい」
あんまり強引なのは好きじゃないんだけど、しょうがないか。ティファもベロニカも強めに押さないと全然動かないからな。カスバールの女性は皆そうなのか?あ、違うか?エリスがいたな?
「ちょ!ちょっと?急に引っ張らないでよ!あと、この手を離して!!」
「だって。捕まえておかないと逃げるだろ?」
「に、逃げないわよ!ティファじゃあるまいし!馬鹿じゃないの!!」
そう?じゃあ離すけど、暴れるなよ?
ん?何でそんな隅に寄る?
「そ、それで?どこに行くつもりなの?」
「サンチコアを出て少し行くとマチ湖っていう綺麗な湖があるんだけど、その側に魔力が溜まる場所があって、この時期になると、それが地面から外に出てくるんだ。魔力を纏った水の塊が下から空へ舞い上がっていくんだけど、とても、綺麗なんだ」
「へぇ?」
反応薄いな?
ただの気分転換なんだから、もっと気楽に楽しんで欲しいんだけどな。
「フィクス様、到着しました」
「わかった。ベロニカ降りよう」
「ええ」
まだ、水面からは反応がないな。
もう少し待たないといけないかもな。
「・・・・フィクス」
「ん?どうした?ベロニカ?」
まずい。顔色が悪い。
もしかして馬車に乗っている間に気分が悪くなったか?
しまった。・・・・戻った方がいいか?
「具合悪いのか?戻ろうか?」
「・・・・嫌よ。わざわざ来たのに。せっかくだから、見て帰るわ」
参ったな。まだ、目的地まで距離がある。
・・・しょうがないか。
「ちょっと抱えるけど、暴れるなよ?」
「・・・・フィクス?ちょ?!」
軽っ!!何でこんなに軽いんだよ。アイラより軽いぞ?
・・・・・これは問題だな。
「もっと食べないと。体が保たないぞ」
「・・・・・・ええ」
帰ったらティファに相談してベロニカの食事をもっと栄養価が高い献立に変えてもらわないと。
デズロ様、遊んでないでサッサと目的を果たして帰って来て下さいよ。ちょっとこれは楽観視できない。
「ここ?何も起きないけど」
「もう少し、夕方ぐらいになると、ほら!」
水面からポツリポツリと美しい蒼色が空に上がっていくんだよ。俺、これを初めて見た時は感動したなぁ。
原理がわかってても幻想的で、まるで水の中に居るみたいな感覚になるんだ。
「・・・・・綺麗・・・・」
「・・・・・・・・・っ!」
俺の腕の中にいるベロニカが余りに軽いからなのか。
それとも、この風景を見て錯覚を起こしているからなの
か。
・・・・・ベロニカが、綺麗だからなのか。
今、背筋から一瞬で熱が失くなっていく感覚がした。
「ありがとう、フィクス。とても、綺麗だわ」
どうして?
そんなの、俺にだって分からない。
ただベロニカに、笑って欲しかっただけなのに。
「ベロニカ」
「なに?」
どうして、あんな事言ってしまったんだ。俺。
「行かないでくれ。俺を置いて」
それを聞いたベロニカの気持ちなんて、分かりもしない癖に。