獣人
シャーロットの店を出ると、いつの間にか空が茜色に染まっていた。
ここにはそれほどの時間滞在した覚えはないので、鍛冶屋であれこれと装備を整えている間に思った以上に時間が経っていたようだ。
俺の中の予定ではこの後ギルドへ報告に行こうと思っていたのたが、この時間になると朝に任務で外へ出た下級冒険者たちが帰ってくるのでギルドの中は混雑している。
なので、今報告へ行くと邪魔になるだろうから時間をずらしてもう一度来よう。そしたら、受付で軽い報告だけを済ませて明日の午後一でギルドマスターと話ができるように手配してもらうことにしよう。その時間なら人もまばらだし大丈夫だろう。たぶんだけど。
さて、それじゃあ何をして時間を潰そうか。ナイフの投擲訓練をするには時間が微妙だし、もうじき門が閉ざされる時間なので走りに行くこともできない。……なら筋トレかな。
まぁ、正直筋トレをしても大してステータスは伸びないけど、その少しの差に助けられることもあるだろうし、反復的に鍛練を積んでいればそのうちスキルが生えてくることもある。
汗をかいた状態で人と会うのは控えたいので、直前に体を拭く時間も考えると一時間ぐらいか。それほど時間的に余裕はないので手早く行動に移ろう。少し慌ただしくなるが、それぐらいの方が集中して事に当たれるので状況的には悪くない。
よし、それじゃあ行動開始だ。
それから少しして、軽く筋トレを済ませ、空が薄暗くなってきた頃。冒険者ギルドへとやってきた。
入り口からちらっと覗いた限りでは然程人もいないようなのでこれなら邪魔にはならないだろう。
扉を押し開き中へ入ると、鈴の音が鳴り響き一瞬人の視線が俺に集まるが、次の瞬間には興味をなくしてそれぞれが自分の作業に戻る。
最初の頃は視線を浴びせられるこの瞬間が苦手だったが、半年も通い詰めればさすがに慣れた。この程度なら今では平常心で受け流すことができる。
俺も成長したものだ。と思わず自画自賛したくなるが、この程度、普通ならできて当然のことなので誇れることではない。まぁ、それでも若干人見知りの俺からすれば進歩であることに変わりないので、嬉しいのは嬉しいが。
と、そんなことを考えているうちに正面の受付カウンターが空いたので、背を預けていた壁際から離れそこで報告を済ませようとしたが、丁度同じタイミングで動き出した人物がいたので視線をそちらへ向けると、相手も同様にこちらに視線を向けてきたので、互いに目があった。
そこにいたのは普通の人間ではなく、人の体に獣耳と尻尾を兼ね備えた、いわゆる、なんちゃって獣人の青年だった。
その毛色は綺麗な銀色で、室内を照らす明かりを受けて煌めいて見える。
彼は少々決まりの悪そうな表情を浮かべ、口を開いた。
「あー、何だ。お前も受付が空くの待ってたのかよ?」
「まぁ、な。でも俺は別に急いでないし、先に行ってくれていいぞ」
「お? いいのかよ?」
「どうぞどうぞ」
「そうか、悪いな」
俺が先を譲ると、彼はその鋭い犬歯を剥き出しにする笑顔をその顔に浮かべ、受付に任務の報告へ向かった。
そういえば、昨日行った獣人の村ではたくさんの獣人を見たが、この街では初めて獣人を見た。ここにもいたんだな。
と、あまりじろじろ見るのも失礼だな。自分がされて嫌なことは他人にもしないっていうのは常識だ。
そして、その後すぐに他の受付が空いたので、俺もそこで報告を済ませ、次の日にギルドマスターとの面会の約束を取り付けたので、家に帰ることにした。




