購入2
「その顔はまだ何かを求めていると見た。遠慮せずに我に申してみるがよい。可能な限り要望には応えてやろうぞ」
少しアレな口調をしている割には、他人の顔色を窺うことはできるんだな。いや、素直に相手に謝ることができるこの子ならその程度の空気を読むことぐらいは当然こなせるか。でもそう考えると本当にこの口調はなんなんだろう。何だかすごくちぐはぐな印象を受けるんだが。まぁ、単純にそういうのが好きなだけかもしれないし、妙な詮索はやめておいた方がいいかな。別に何が好きかどうかなんてこの子の自由なんだし、俺がそれを指摘するのも変な話だ。
「どうした?」
「いや」
下手にイメージを気にして不審な気配を覗かせるより、素直に毒薬を購入したい旨を伝えるか。用途をきちんと説明すればいいわけだし、そもそもよく考えてみれば暗殺するようなやつが普通に店で毒薬を購入するとは考え難いもんな。うん。そうしよう。
「薬を扱っているんなら毒薬って置いてある?」
「毒? あるが何に使うのだ?」
その質問に対し、俺はドワーフの鍛冶屋でした説明をシャーロットにもしてやると、「なるほどな」と、理解の頷きを見せてくれた。
「だが、その強さの魔物に効果を及ぼす毒となればそれなりに強力な毒でなくてはならん。そうなるとこちらも先程の回復薬よりも値が張るが大丈夫か?」
「え? 毒薬ってそんなに高価なのか?」
「うむ。強力な毒は入手が困難なのだ。魔物の毒だろうが、植物から採取できる毒だろうがな。何故なら毒というものは過酷な環境でもその種が生き残れるようにと手にした能力なので、強力なものを手にいれるためにはこちらもその環境に足を踏み入れないといけなくなる。当然かなりの危険が伴うために希少価値のあるものとなるため、それ相応の値段になってしまうのは当然であろう」
「そっか。それでどのぐらいの値段なんだ?」
「ふむ。回復薬にして五本分と言ったところだな」
「お、おぅ」
何という金額の暴力。さすがにそんな金は持ち合わせていない。少し甘くみすぎていたということか。
「更に毒を扱うのであれば、同時にその毒に対しての予防薬と解毒薬も購入してもらうことになるからな。でなければ、それが原因となり死んでしまっては我が沽券に関わるからな」
確かに売る側からすればそういう配慮も必要になってくるよな。俺にしても、毒ナイフを防がれてしまえば逆に相手にそれを使われてしまう可能性もあるわけで、その予防をするのは当然ということか。……完全に考えが甘かった。もっとよく調べておくべきだったな。ナイフは投擲用で使えるし無駄にはならないが、毒は今回は諦めるか。
「駄目だな、全然金が足りない。ちなみに解毒薬はどのくらいの値段なんだ?」
「解毒薬は効能によって値が変わるが、ある程度までの毒を打ち消すものなら回復薬と同等であるな」
「なら回復薬と解毒薬を一本ずつ貰えるか」
「うむ、了承した。しばし待つがよい」
そう言ってシャーロットは、先程回復薬を取り出した戸棚と、その隣の戸棚から一本ずつ小瓶を取り出すと、こちらにそれを持ってきた。
「先程渡した通り、こちらの赤い液体が回復薬で、こちらの青い液体が解毒薬となっている。間違えるでないぞ」
「あぁ、ありがとう」
二本の小瓶と引き換えに料金を支払い、回復薬と解毒薬を手に入れた。手持ちの金が一気に目減りしたが、それでもまだそこそこは残っている。だが、これは他に入り用な物ができた時のために取っておこう。
「それじゃあ、今回はこれぐらいにしておこうかな」
「ふむ、そうか。また何か必要になればいつでも来るがよいぞ」
「あぁ、それじゃあまたな」
手を上げ別れの言葉を口にすると、踵を返し店を後にしようと、入り口に向かっていたところ、後ろから「あ」というシャーロットの声が聞こえたので、後ろを振り返る。
「ん? どうかしたか?」
「う、うむ。そういえば貴様の……。お兄さんの名前を聞いていなかったなと、思いまして」
「あー、そういえばそうだったか」
そうだな。言ってなかった気がする。これからも何度となくここには足を運ぶことになるだろうし、覚えてもらっておいた方が何かと便利だわな。
「アスマ。俺の名前はアスマだよ」




