胸当て
「次は胸当てだな。つっても胸当てはあんま需要がないんで大して種類はないがな」
「え? そうなの?」
「そりゃあ胸当ては胸を守るだけの防具だからな、腹は守れないってんで、どうせなら胴体を守れる鎧を装備するやつの方が圧倒的に多いんだよ」
まぁ確かに胸を守っていれば即死のリスクは軽減できるかもしれないが、腹部も深い傷を負えばそれが死に繋がるという可能性も否定できない。
でも、俺の場合スキルを発動中ならともかく、目的地への移動中などの平時から重量物を装備するのは厳しい。そんなことをすれば体力が持たずに戦闘前に疲れてしまうし、咄嗟の時に動きが制限されてしまいそうだしな。
「まぁ、その分重量がかさむからその辺りは個人の判断で好きにすりゃいいんだがよ。おめぇさんもその口だろ」
「あぁ、そうだな。短時間ならともかく、長時間金属鎧を身につけるのはちょっとな」
「だろうよ。そんじゃ、こん中から選んでくれ」
先程言っていた通り、他の防具に比べると数も種類も少ない。なので、兜を選んだ時と同様に特に迷うこともなく一つの胸当てを手に取る。そして、試着する時に邪魔になりそうなので被ったままだった兜を脱ぎ、一旦脇に置く。
正直胸当てを最初に見た時はどうやって身につけるのか分からなかったが、裏面を見てると、前面板、側面板、背面板と三つの板を丈夫そうな紐で繋ぎ合わせた造りになっていて、前面板の裏側に腕を通すためのベルトが取り付けられてあり、背面板に締め付けを調整するためのベルトが備え付けられていた。
構造が分かれば装着自体は簡単なので、手早くそれを身につけてみる。実際は革鎧の上から身につける予定なので今は軽く固定するだけに止めておいて、体にかかる重量や、体の動きへの影響を確かめていく。
「うん、いいな。これにするよ」
「あいよ。盾に、ナイフに、兜に、胸当て。こんだけ買ってもらえりゃあ魔石の買い取り金からの差額を今すぐ渡すことができるぜ。どうする? もう他に欲しいもんはねぇか?」
今のところはこれで十分かな。回復薬や毒薬を買う分の金は残しておかないといけないし、色々な物を買ったところで一遍に訓練することはできないんだしな。
「いや、特にはないかな」
「そうか、じゃあ今金を取ってくるから待っててくれや」
「あぁ」
その後、金を受け取った俺は買った装備を手に、一度家に戻ろうと店を出たところで、槍の修繕費を払うのを忘れていたことに気づいて慌てて店に戻り、その代金を支払った。




