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ナイフ

 「あのさ、投擲用のナイフと毒って売ってないかな?」

 「ナイフはあるが、毒はねぇよ。何だ? 毒ナイフでも使おうってのか?」

 「うん。昨日、こっちの攻撃が全く通じない魔物に遭遇してさ、他の人が斬りつけた傷跡の上から、自滅覚悟の突貫で剣を突き刺して何とか倒すことができたんだけど、かなりギリギリの戦いだったんだよ。それで、冒険者をやっていればまたああいう魔物と出くわす可能性もあるし、対抗策はいくつか持っておきたいんだ」


 あの時はエルフ娘のセシリィとミーティアが《精霊宿し》という精霊術を使うことで、半死状態になった魔物に止めの一撃を突き込むことで戦闘を終わらせることができたが、あの二人がいなければ致命傷を負わせる手段もないままジリ貧になっていたに違いない。だから、格上が相手でも俺一人で勝ち筋を確保できるようなそんな何かを手に入れておきたいと思った。まぁ、毒を使う場合でも最低限、掠り傷は負わせられないと話にならないんだがな。


 「まぁ、そういうことならこのあたりのナイフがいいだろうよ」


 そう言ってドンガルさんが見せてくれたのは刀身が俺の指の長さ程度しかない小ぶりのナイフだった。


 「こりゃあ元々狩猟用の投擲ナイフなんだがよ、ここに溝が入ってるだろ? この溝がついてることで、こいつがあると深く刺さっても抜けやすくなっててよ、獲物を出血させるにはもってこいの代物だ」

 「ほぉ。でも、あまり出血させても毒が血と一緒に流れ出ちゃうんじゃないか?」

 「んなこたねぇよ。毒なんて体ん中に入ったらすぐに血と混じって全身に回り始めるから、こんなちっちぇー傷からじゃ流れたりしねぇよ」

 「へぇ、そうなんだ」


 確かに血液ってすごい速度で全身に循環してるみたいだし、そう考えるとその通りなのかもしれないな。


 「つっても、ワシも専門じゃねぇからこれ以上のことは、毒を扱ってる店で聞いてくれや。薬師の店に行きゃあ毒ぐらいあるだろうよ」

 「あー、毒と薬は紙一重とかなんとか言うもんな。で、それってどこにあるの?」

 「南門の近くだ。独特な店構えをしてっからすぐに分かるだろうさ」

 「そっか、ありがとう」


 薬屋なら回復薬も扱ってるよな? なら、その時に一緒に買って帰ろう。これでようやくミリオに回復薬を返すことができる。金が余ったら自分用にもう一本買っておいた方がいいかな? うん、用心に越したことはないし、買っておこう。


 「でだ、ナイフは何本買うんだ? 二十なら用意できるぞ」

 「そんなにはいらないよ。とりあえず四本、いや五本だけ貰っておくよ」


 練習用に一本余分に買っておく。当てるだけなら練習の必要なんてないかもしれないが、ナイフを投げたことなんて一度しかないから、どんな体勢からでも真っ直ぐ投げられるようにしておいた方がいいだろう。


 「あいよ、毎度」

 「あ、これって鞘とかってある?」

 「おう。ちょっと待ってな」


 ドンガルさんがカウンターの奥に回り、棚の下から取り出したそれは、ベルトに括り付けるために紐がついた小さな鞘だった。


 「ほいよ。着け方は分かるな?」

 「あぁ、分かるよ」


 今は装備を着けていないから試しに着けてみることはできないが、明日にでも試してみることにしよう。

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