買い取り
役目は終わったとばかりに、自分の作業へと戻ったアンドレイ。
その隣でカウンター越しに向き合ってドンガルさんと話し合いを始める。
「魔石を買い取ってもらえるってことだけど、そもそもこれって何に使うの?」
「何だ、知らずに売りにきたのか?」
「まぁ。というか、そもそもどこで売ればいいのか分からなかったから、それをアンドレイに聞きに来んだけどな」
「ほう、そりゃあ運が良かったぜ。他所に持っていかれる前に確保できるなんてよ」
その言い方からすると魔石って結構競争率が激しいのかな? ってことは想像以上に高値で売れる可能性が出てきたかもしれない。
「で、何に使うかってぇと、魔石ってやつはよ、魔力を取り込んで循環し、それを増幅させる性質を持ってやがるんだ。だからよ、うちの場合はこれを武器の刀身に組み込んで、魔力を流すと、それを纏って何倍にも斬れ味が増した武器、魔刃武器が完成するってわけだ」
「おぉ、すげぇ」
魔刃武器か。いいな、それ。
「まぁ、魔刃武器は最大限の効果を発揮させるために、かなり精密な鍛造をせんとならんから、一本鍛えるのに一年以上掛かるから、おいそれと量産はできんのだがな」
それはまた難儀な。でも、手間を掛けるだけの価値はあるんだろう。魔刃武器の話をしているドンガルさんはなんとなく楽しそうに見えるし、たぶんやりがいのある仕事なんだろうな。
「他のところでは何に使ってるんだ?」
「そうだな。魔法道具であったり、魔術の触媒であったり、後は魔弾あたりじゃねぇか?」
「魔弾って?」
「魔弾は魔術を封じ込めた魔石のことだ。まぁ、戦争の時に使われる兵器の類だな」
魔術の爆弾ってことか。何て危険なものを開発しやがるんだよ。というか、魔術も魔石の内部で増幅するんなら、いったいどんな威力になるんだろう。……想像したくもないな。
「でも、おめぇさんよくこんなもん手に入れられたもんだな。見たとこ下級の冒険者ってとこだろ? 魔石なんてもんは中位以上の一部の魔物からしか取れねぇんだがな」
へぇ、そうなんだ。まぁ、あの魔族なら中位の魔物どころか上位の魔物でも相手にならないんじゃないか? 分からんけど。
「色々あって報酬で貰ったって感じかな?」
「報酬ねぇ。まぁ、いい。んで、買い取りの値段だがよ、こんなもんでどうだ?」
ドンガルさんはカウンターの下から取り出した木板に木炭のようなもので数字を書き込んで、それをこちらに差し出してきた。
日々の学習のおかげで、何とか読みに関してはある程度の理解を示せるようになってきたので、受け取ったそれを読んでみたが、俺の読み間違いなのかどうにも桁がおかしいような気がする。
「あのさ、これ何か桁間違ってないか?」
「あん?」
一度木板をドンガルさんに戻し、確認してもらう。
「ひの、ふの、みの……いや、こんなもんだろ? 何だ、もっと寄越せってか?」
「じゃなくて。え? 本当にそれで合ってるのか? いくら何でも多すぎないか?」
「多すぎってこたぁねぇだろ。んじゃあこれでいいか?」
「あ、うん」
「おし、交渉成立だな」
木板に書かれていた魔石の値段はどう見てもおかしいと思うんだけど、あれが普通なのか?
だって、あれ一つで、余裕で回復薬が数本は買える値段がするなんてどうかしてるだろ?




