防具
「と、その前に装備を準備をしないと」
「そういえばそうだな」
今の俺って初期装備以前の防具も何もない状態、いわゆる裸装備ってやつだからな。
「あー、でもそのための金すら持ち合わせてないんだよな」
「それぐらいなら貸してあげるよ?」
……これ以上は借りを作りたくないけど。こればっかりは仕方ないか?
うーん、でもなー。
……いや、ここで遠慮してそれが原因で死んじまったら元も子もないしな、素直に借りておこう。
「悪い、あとで絶対に返すから」
……自分で言っててなんだけど、本当に駄目人間というか屑みたいな台詞だな。落ち込んできた。
「うん。それじゃお店に行こうか」
ミリオは人を疑うってことを知らないんだろうか? 悪いやつに騙されそうで心配になってくるな。
でも俺を信用して貸してくれるんだからそれは絶対無下にしないようにしよう。
あ、外に出るなら靴を貸してほしいんだけど。ある?
で、安価ながら良質な武器防具を扱っているという店に来たわけなんだけど。
……字が読めない。
いや、異世界なんだし当たり前っちゃ当たり前なんだけど、言葉が通じてたから完全に失念してた。
「で、どんな装備が欲しいんだ?」
長い口髭を蓄えた背が低くて筋骨隆々なドワーフのような店主がカウンター越しに話しかけてくる。
というか完全にドワーフじゃんか。こんな身近にファンタジーがいるとは。
でも、どれが欲しいとか言われても分からんよ。逆に聞きたいぐらいだ、俺はどれを買えばいい?
よく考えたら貨幣価値も分からないし、見た感じでは武器防具の良さも素人の俺には分からない。
やっぱりここは経験者に聞くのが一番かな。
「なぁミリオ。正直どれがいいのか俺にはさっぱりなんだけど、こういうのってどういう基準で決めればいいんだ?」
「そうだね、基本的には自分の戦闘スタイルにあった装備を選ぶのが一番なんだけど、アスマは戦闘経験が無いって話だし、レベルも低い。なら防具は軽い革製で揃えた方がいいかもね。革製なら値段も鉄製の物よりも安価だし」
おぉ。さすがは冒険者の先輩だ。確かに鉄の防具の方が防御力は高いんだろうけど、重量がありそうだから体力のない俺じゃすぐにバテるだろう。
でも革って防具としてはどうなんだろう。こんなので攻撃を防げるのか不安なんだけど。ちょっと触ってみてもいいのかな?
って固っ!
なんだこれ? 柔軟性はあるのにすげぇ固い。
すごいな。これなら多少どつかれたぐらいじゃびくともしないだろうな。革製だろうが防具というだけのことはあるってことか。
「それじゃあ、革で一番安いやつってどれですか?」
ん? なんかミリオが変なものを見る目でこっちを見てるけど、なんだ? 俺が敬語使ってるのがそんなにおかしいのか? 俺にだって年上の人には敬語を使う常識はあるっての。
「あん? 安いやつはそっちの……あぁいや待った。俺がこの間作ったやつでもよければそれが一番安いぞ」
「え? こっちのやつはおじさんが作ったやつじゃないんですか?」
「……おじさんて、見たところあんた俺とそんなに歳変わらないだろうに」
「え?」
……何言ってんだこの人?
「えっと? ちなみにおいくつなんでしょうか?」
「俺は今年で18になったところだ」
……なん、だと?
「……俺は22。って、あんた年下かよ」
いや、どこからどうみてもオッサンじゃねぇか。老けてるとかいう問題じゃないぞ。
「へぇ、アスマって22歳なんだ。僕は19だから年上だったんだね」
君が年下なのは何となくそうだと思ってたけど、このドワーフが18っていうのはこれもう詐欺だろ。
「というかミリオ。お前がさっきこっちを変な顔で見てたのってそういうことか?」
「うん? いや、あれは僕と話してる時とは違う話し方だったから、どうしたんだろうって思って」
「いや、この人が年上だと思ってたから敬語で話してただけだよ」
まぁ、年下だからって舐めてかかることもないけどさ。
「え? よくわからないけど、敬語って貴族相手に使う言葉なんじゃないの?」
「え? ……あぁ、こっちではそうなのか」
これがカルチャーショックってやつなのかね。
俺の日本人的な常識とこっちの常識では差異があるってことなんだろうな。
「まぁ、なんだ、俺の故郷では年上とか目上の人には敬語を使うのが当たり前だったんだよ。気にしないでくれ」
「そうなんだ、うん分かったよ」
じゃあ俺も敬語使うの止めようかな。別に好きで使ってたわけでもないし、使わないのが普通ならそれに合わせよう。
「……話を戻そう。それであんた、名前なんていうんだ」
「おう、俺はアンドレイだ。この店で見習いやらせてもらってんだ。で、そっちの防具はこの店の主人で俺の師匠が作ったやつなんだ」
「アンドレイね。俺はアスマだ、よろしく。で、アンドレイが作った防具なら安く売ってもらえるのか?」
「おうともさ。多分だが、あんた冒険者志望だろ? そういうやつはあんまり金持ってないのが多いからな。俺みたいな下っ端が作った防具は普通売り物には出来ないんだが、そういうやつになら売ってもいいと師匠にも許可をもらってっからよ」
「そいつはありがたいね。貧乏人の俺にはうってつけだ」
貧乏人どころか無一文だけどな。ははっ、笑えねぇ。
「じゃあそれ持ってきてくれないか?」
「あいよ、ちょっと待ってな」
そう言い残してアンドレイはカウンターの裏にある扉を開けて中に入っていき、数分もしないうちにその手に目当ての物を持って戻ってきた。
「防具一式持ってきたからとりあえず試着してみてくれ。きつかったり弛かったりしたら直すからよ」
「あぁ、了解」
……と言ったものの、着け方が分からんのがいくつかあるけど、まぁ分かるやつから着けていくか。
ブーツは普通に履けばいいだけだろ、次に鎧だけど横についてる紐を緩めて頭から通して、紐を締める。うん悪くない。肩周りの動きも阻害されないし、いいんじゃないか。
で、これは腰に着けるのか? あぁ、太腿と股間のガードか。
後は腕を覆う腕甲とグローブ、ヘルメットみたいな兜も着け方は分かるんだけど。
この丸いやつ、多分肩と肘、膝の関節に着けるやつだと思うんだけどどう着けるんだ?
「なぁ、これの着け方が分かんねぇんだけど」
教えてくださいミリオさん。
「あぁそれは内側に布を通す隙間があるから、そこに布を通して巻くだけだよ」
なるほど、そういう構造になってるのか。
よし、できた。けどTシャツ短パンの上から着たせいで所々肌が見えてるのがなんか格好悪いな。インナーとズボンも欲しい。
「どうだ、着心地は。どっか違和感あったりしないか?」
その場で飛んでみたり、軽く体を捻ったりしてみても特に問題があるようには感じないな。軽くて動きやすいし。
全力で動いたらどうかは分からんけど。
「あぁ、一応大丈夫そうだ」
「そうか。あんたの体格に合いそうなやつを選んで持ってきたが、それなら何よりだ」
見ただけで分かるもんなのか。見習いなのにすごいな職人。
「じゃあ防具はこれで決定ってことで」
「次は武器だね」
武器か。俺に扱えるような武器が果たしてあるんだろうか。
できれば武器も軽くて安いのがあればいいな。
戦闘シーンにたどり着けない