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ドンガル

 少しして、奥の部屋からアンドレイより数割増しで厚く、太い筋肉を持った、ドワーフのそっくりさんが出てきた。

 ……顔だけ見たらまじで見分けがつかないな。でも、師匠というだけあってその身に纏っている空気がアンドレイとはまるで違う。重厚な気配を感じる。

 というか今まで奥で鍛冶をしていたのか、体から熱気が放出されていて部屋の温度が急に上がったような気がする。


 「おめぇさんか、こいつを持ってきたやつは」


 ドワーフ師匠はその無骨な掌に乗せた魔石をこちらへと突き出し、低く重い声でそう問い掛けてきた。


 「あ、はい。そうで……そうだけど」


 いつものように咄嗟で敬語が出そうになったが、そろそろ俺も学習した。この世界、というかこの辺りの人たちは敬語というものをあまり使わない。逆に使った方が変な顔をされるぐらいだ。

 貴族相手や畏まった場では使うのかもしれないが、基本的には目上の相手だろうが関係なく対等に接している節があるので、俺もそれに倣って敬語を使うのは控えようと思っている。

 郷に入っては郷に従えと言うように、それがここのルールならなるべくそれに合わせた方が変に注目される可能性も減るというものだ。

 まぁ、それでも無駄に尊大な態度を取ったりは絶対にしないけど。最低限の礼節と、敬意を払う心は持ち合わせているつもりだ。


 「ワシはこの店の店主でドンガルっつーもんだ。よろしくな」

 「あ、俺はアスマ。よろしく」


 魔石を持っているのとは逆の手で握手を求められたので、こっちも手を差し出してそれに応じる。

 その瞬間、ドワーフ師匠・ドンガルさんの後ろにいるアンドレイが、あっ、と声を上げ、握手を交わした瞬間、ドンガルさんのゴツゴツとした固くて大きな手に俺の手が握り潰されたかと錯覚する程の強い力で握り締められる。


 「え、ちょっ、痛い痛い痛い! 潰れる! 潰れるっ!!」

 「ん? おぉ、悪い悪い」


 あまり悪びれているようには聞こえない声で謝罪の言葉を口にし、握っていた手を放したドンガルさん。

 その圧力から解放された俺は、少し泣きそうになりながら潰されかけた手をもう片方の手で押さえる。


 「お、おい。大丈夫かあんた。何をやってんだよ師匠。あんたは馬鹿力なんだからもっと力抜かねぇとよ」

 「おう。悪いな客人。どうも仕事柄物を強く握る癖があってよ。つい、力が入り過ぎちまったやい」


 ついじゃねぇよ。本気で潰されるかと思った。何て馬鹿力してやがるんだよこの人。


 「本当すまねぇな」

 「いや、別に何ともなってないからいいけどさ」


 怪我は負っていないので痛みはすぐに引いたが、もうこの人とは二度と握手しないと心に刻んでおく。


 「それで、師匠さんを連れてきてどうしたんだよアンドレイ。その魔石のことで何かあるのか?」

 「おうさ。あんた金の支払いの話をしてた時にこの魔石を取り出しただろ? ってことは、こいつを売り捌きたいと思ってんのかと思ってよ」

 「あぁ、その通りだよ。何、もしかしてここで買い取ってくれるのか?」

 「おうよ。そのために師匠を呼んできたんだ。ってことで、後は師匠と話を詰めてくれや」

 「おぉ、ありがとう」


 売れる場所を聞こうと思っていたけど、ここで買い取ってくれるっていうんなら手間が省けて丁度良い。いったいいくらぐらいで売れるのかちょっと楽しみだ。

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