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 「あーそういうことか、何となく想像がついたよ。つまり最初に助けてくれたあの時からお前は俺を自分の駒として利用するつもりだったってわけだ」

 「……うん、そうだね。否定はしないよ」


 まぁ元からおかしいとは思っていたことだ。見ず知らずの得体の知れないようなやつに、大切な回復薬を使ってまで助ける価値はない。その後の様々なサポートについてもそうだ。善意で施すにしてはやり過ぎているとは感じながらも、それを享受していたのは俺個人で生き抜くにはこの世界はあまりにも過酷だったからだ。


 「でも、仲間が必要だったんならなんでそんな回りくどい方法を選んだんだ? ギルドには俺より強い冒険者なんていくらでもいるだろ? それに俺が強くなる保証なんてどこにもなかったわけだし」

 「確かに、あそこには君や僕よりも強い人たちはたくさんいるよ。でも、中級以上の冒険者で僕に手を貸してくれる人はまずいないんだ」

 「は? なんでだよ」

 「僕の両親が任務の途中で行方が分からなくなったって言ったよね?」

 「あぁ」


 それはさっき聞いたところだからさすがに忘れていない。五年前に任務に向かってそのまま今も居所が分かっていないってやつだ。


 「その任務には僕の両親とその仲間の人たち合わせて六人で受けたそうなんだ。街から歩いて十日以上はかかる距離にある辺境の町からの依頼だったんだけど、六人はその任務を失敗した。そのせいで町は壊滅的な被害を受けて、更に質が悪いのはその影響が東の帝国の領地にも及んだことなんだ」

 「東の帝国っていうと、《天撃の女帝》とか言われてるとてつもなく強い皇帝が治めている武力国家だったか」


 確か、帝国は武力階級社会で個人の強さで地位と権力が得られる、かなり特殊な国家だったはずだ。そこの皇帝はクロエ・ヴァンクロードとかいう名前の女帝で、噂によると今まで一度も敗北したことがないらしい化け物だ。


 「そう。冒険者ギルドは王国の管轄だから、この街の冒険者が失敗した任務の影響で帝国の領地に微小ながらも被害を出したことが問題になって、今はもう収まっているけど当時の冒険者はかなり負担を強いられていたみたいなんだよ。報酬が少なくなったり、帝国側からの危険な依頼を受けさせられたりとかね」

 「……もしかして、上の冒険者たちに協力してもらえない理由って、お前がその被害を出したやつの息子だからってことか?」

 「うん、今中級以上の人は当時の煽りを受けた被害者だからね。僕自身に恨みがなくても、その関係者っていうことで敬遠したくなる気持ちは分かるからね」


 ……被害を生み出した張本人ではなくても、その血縁者だからという理由だけでミリオを寄ってたかって除け者にしているってわけか。ふざけているな、とは思うが、同時にその感情を理解できなくはないと思ってしまう。当時の被害を知らない俺には分からないが、収入が減ることによって割りを食った人も大勢いただろうし、危険な依頼で負傷、もしくは死傷を負った人もいたはずだ。そんなことがあれば人はその鬱屈とした感情の矛先をどこかに向けずにはいられない生き物だ。どれだけ取り繕おうと人の感情というものは、正よりも負の方が大きく、激しく、強くなりやすいものだから。


 「そこで何も知らない俺が、お前のお供に選ばれたってわけか」

 「その通りだよ。何も知らない君の存在は僕にとってとても都合が良かった。レベルが上がらないって知った時には少し落胆する気持ちもあったけど、それでも君は諦めずに君だけが持っている力で、この短期間で目覚ましい成長を見せてくれた。本当に君は想像以上だよアスマ」


 いつもとは違い、ミリオはその顔に似合わない口の端を吊り上げた笑みを見せる。


 「……でも良かったのかその話を俺にして。俺がそれを断って今すぐここから出ていくってこともあり得るだろ?」

 「それはないよ。この半年君と一緒に生活して、君の性格は大体分かってる。君は絶対にこの話を断らないよ。絶対にね」

 「ははっ、よく分かってるじゃねぇか。さすがはミリオさん。その腹黒さ嫌いじゃないぜ」

 「ありがとう。……でも、一言だけ謝らせてほしいんだ。ごめん、こんな卑劣な手段を取って。幻滅したでしょ?」


 先程の笑みから一転、今度は落ち込んだように目を伏せてこちらを窺うような口調で謝罪の言葉を掛けてきた。

 だが、俺にとってそんなことはどうでも良かった。


 「ばーか。んなことでいちいち幻滅なんてしねぇよ。お前、今ので俺に嫌われたかもって思ってるかもしれないけど、逆だ。むしろそっちの方が人間味があって親しみやすいぐらいだ」

 「え?」

 「あのな、一つ勘違いしてるみたいだから言っとくけど、俺はな、今すっげぇ嬉しいんだよ」

 「は? え、なん、で?」


 目を見開いて、唖然とした表情でこちらを見ているミリオに俺は宣言する。


 「どんな目的があったにせよ、お前が俺の命を救ってくれた恩人だってことには変わらない。俺がここまで力を付けることができたのもお前が居てくれたからだ。俺はな、ずっと思ってたんだよ、お前から受けたこの恩をどうやって返そうかって。だから、お前が自分の目的のために俺を戦力として必要としてくれているのが、俺は堪らなく嬉しい。むしろこっちからお願いしたいぐらいだ。その話、俺に手伝わせてくれないか?」

 「……は、ははっ。あははっ、あははははっ!」


 俺の宣言を聞いたミリオは、何が可笑しかったのか急に大きな声で笑い出した。


 「……何か俺変なこと言ったか?」

 「いや、ごめん、これは、違うよ。ははっ、本当にアスマは面白いね。こんなに笑ったのは久しぶりだ」


 ……こっちとしてはなんで笑われてるのか分からないんだけど。面白い要素がどこにあったんだろう。分からん。


 「うん。じゃあアスマのお願い、喜んで聞き入れるよ。アスマ、僕の目的のために君の力を貸してくれるかな?」

 「え、あ、おう!」


 何だかよく分からないけど、ミリオの表情は憑き物が落ちたように晴れやかな笑顔になっていた。

 結局何で笑われていたのかは分からないままだけど、まぁ、いいとしておこう。

 ミリオが笑ってくれているのは俺にとっても嬉しいことだ。

 ミリオとクレアはこの世界に来て初めて接触した人物で、俺が勝手に思っているだけだが、半年ほど一緒に過ごしたことで同居人というよりも、家族に近い存在だと思っている。だから、二人にはいつでも笑顔でいてもらいたい。もし、それを曇らせる要因があるなら俺は自分が持てる全力で、それを排除しに掛かるだろう。願わくば、いつまでも二人が幸せでいられるようにあってほしい。

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