忠告
「まずはお疲れさんとでも言っておこうか」
冒険者ギルドのギルドマスター執務室にて、椅子に腰掛けグランツさんと対面し、労いの言葉を掛けられる。
「で、どうだったよ、オークは?」
「どうもこうもねぇよ、あんなの俺みたいな素人が相手にするもんじゃねぇだろ? 死ぬかと思ったわ」
「はっ、そりゃおめぇ下級冒険者の壁って言われてるぐらいの魔物だからな。でも、倒してきたんだろ? 聞いてるぜ」
「あぁ、まぁな。これでいいんだよな」
腰に吊るしている革袋からオークの首飾りを取り出して、グランツさんに手渡す。
「おう。……あ? おい、お前、これ一人で倒したのか?」
首飾りを受け取ったグランツさんはそれを一目見た後、訝しげな視線をこちらに寄越してくる。
「やっぱそれ普通のオークのと違うのか。あー、実はそのことで話があるんだけど」
そして、俺は森で起きた一部始終の出来事をグランツさんに語った。もちろん獣人村のことが伝わりそうな内容は省いてだが。
「はぁん。エルフと共闘して大量のゴブリンとオークの上位種を相手に大乱闘ねぇ。お前馬鹿だろ」
「いや、その感想は酷くないか?」
俺の大奮戦を語り聞かせた結果、返ってきたのがこの反応である。解せん。
「酷くねぇよ。まぁ通常種のオークを討伐したところまでは文句なしに上出来だ。いや、むしろ想像以上の成果だ。だが、帰り道が分からなくなるってのは戴けねぇなぁ」
「うっ、それはまぁ、その、な」
「な、じゃねぇよ。帰還経路の確保はある意味じゃ一番重要な部分だろうが。そこを疎かにすんのは命を投げ捨てんのと同義だってんだ」
「いや、でも」
「でもじゃねぇ。その結果で殺されかけてんだろうが。偶々そのエルフたちが通り掛かったから助かったものの、それがなけりゃお前はその時点で終わってんだよ」
「……まぁ」
「そのことで恩義を感じてエルフたちに助力すんのも間違ってはないが、ハイオークを挑発してその力を利用するなんて、お前死にたいのか? あんなもん中級が相手をするような魔物だぞ?」
あいつハイオークっていうのか。というか中級レベルの魔物だったんだな、どうりで攻撃が通らないわけだ。
「お前が生きて帰ってこられたのは、はっきり言って運が良かっただけだ。次に同じようなことがあれば間違いなく死ぬ。それを十分胸に刻んで今後の行動に生かせ」
「うっす」
俺のことを想って忠告してくれているであろうグランツさんに感謝を込めた返事を返す。
するとグランツさんの表情が少し和らいだものになり、ため息を一つ吐き、椅子に深くもたれ掛かった。
「よし、じゃあ説教はここまでだ。冒険者証の作成はこっちでやっとくから今日のところは帰って休め。まだ、疲労が抜けてないだろ」
「あー、そうだな。じゃあまた明日来ますわ」
椅子から腰を起こし、執務室の出入口まで移動し、もう一度だけグランツさんに向き直る。
「今日はありがとうございました。失礼します」
「おう」
扉を開き執務室を後にし、受付で唯一面識のあるテレサさんに頭を下げ挨拶を交わして冒険者ギルドから外に出た。
「さて、今日はこれからどうしようか」
やらなければいけないことの候補はいくつかある、でもとりあえず一旦家に帰るか。
そう決めると家の方角に向け歩き出す。
そして、家へ帰り帰宅の挨拶を告げるが、返事はない。
ミリオは任務に行っているので返事が返ってこないことは分かっていたが、それでも以前までは俺が帰ってくると出迎えをしてくれていた少女が居たのだが、今日はそれがない。
俺が帰ってきたあの日から丸一日が経ったのだが、クレアさんのご機嫌はななめのままだった。




