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【勇者カリン】

 夕凪夏凛ゆうなぎかりんという少女が居た。

 彼女は十六歳の高校一年生だった。

 彼女は勉学、スポーツ共に優秀な成績を収め、その人柄から多くの良き友人に恵まれ、自身の善性も相まって人の悩み事や相談事をよく打ち明けられていた。

 周囲は彼女を頼りにし、彼女も周囲に頼られることが日常的で、そんな毎日に充足感を覚えていたのだ。

 その日もいつも通り学校に通い、一日の授業を消化し帰路に着いている時、突如として足を踏み外したような浮遊感に襲われ、短い悲鳴を上げると共に目をきつく閉じたが、いつまで経っても想像していたような痛みを感じないことに疑問を覚え目を開くと、先程まで見ていた景色とは一変。そこは全てが白で染め上げられた何もない空間だった。

 そこで夏凛は□に出会った。

 そして、勇者としていずれ来る大厄災からこの世界を守ってほしいと頼まれた。

 もちろんこんな突拍子のないことを言われた夏凛は、混乱しながらもその話を断った。

 ただの一学生である自分にはそんな役目は負えない、それより元の世界に帰してほしいと。

 だが□が言うには一度こちらの世界に召喚された者は、制約により使命を全うしない限り元の世界には戻れないとのことだった。

 あまりにも身勝手な□の言に、呆れ半分怒り半分の夏凛だったが、謝罪の言葉と同時に頭を下げられ、頼み事をされてしまっては元来お人好しの夏凛にはその願いを断ることはできず、渋々ながらも了承の返事をしてしまう。

 それに対して□は感謝の言葉を告げると共に、この世界を救うために役に立つだろうと、いくつかの権能とあるシステムを夏凛の魂に刻み込んだ。

 そして、救世の勇者として□より使命を与えられた夏凛は持ち前の才覚や天分を発揮し、様々な試練や困難な状況を乗り越え、人徳や慈悲深さにより多様な種族を味方につけ、遂に災厄の魔王を倒し勇者カリンの名をこの世界に轟かせた。

 ……だが、魔王を倒し世界を救った夏凛に□は何も応えず、夏凛は必死になって元の世界に帰る手段を模索したがついにその方法を見つけることはできなかった。

 そして、十数年の月日が流れ、こちらの世界に家族をもうけた夏凛だったが、精神的な摩耗と特殊な権能を身に宿したことによる急激な魂の変質に耐え兼ねて、年若くしてこの世を去ってしまった。

 夏凛の死後その魂は□の手により、ようやく元の世界に帰されることになったが、それに対し憤怒の感情をあらわにする白い少女が居た。

 そしてもう一人、夏凛の死の間際、傍に寄り添い彼女の最期を見届けた者が居た。

 彼女から泣き笑いの表情で郷愁の思いを聞かされ、大した感情すら持ち合わせていなかった存在がその心に憎悪の炎を滾らせるには□がしたことは十分な裏切りだった。

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