これから
「冒険者の資格は冒険者ギルドで発行してもらえるけど」
「ギルドか。で、ギルドってどこにあるんだ?」
「それよりもアスマはなんで冒険者になりたいの?」
「金だ」
「お金?」
「金だ」
大事なことなので二回言いました。
「いや、二回も言わなくても聞こえてるけど。お金を稼ぐために冒険者になりたいってこと?」
「あぁ。これからの生活で色々金がかかりそうだから、ある程度の金が貯まるまでは冒険者になって稼ごうと思ってさ」
普通に働いて回復薬代を稼ごうと思ったらそれこそ年単位の時間がかかりそうなうえに、その分この家から出るのも遅れるだろう。
長期間こんなおんぶに抱っこ状態で過ごしていたら、俺のなけなしの自立心が衰えそうでなんか辛い。
「うーん。確かにお金を稼ぐなら冒険者になるのが効率的なのは分かるよ。けどその分危険もあるし、ただでさえこの前死にかけたばかりなのに……」
……おぅ。それを言われると耳が痛いです。
確かに死にかけたけどな。でも、こう言ったら変態みたいに聞こえるかもしれないけど、それも含めて刺激的な体験だったんだよな。
「実家を頼ったりはできないの? 僕でよければ君の故郷まで護衛でついていくよ?」
「……あーその、ちょっと訳ありでさ、故郷には帰れないんだよな。そもそも家族もいないし」
うん。嘘はついてない。
実際家族については、母親は俺が生まれてすぐに病気で死んだらしいし、父親も俺が成人してすぐの頃に事故で死んだ。
家は一人で住み続けるには広いから父親の兄弟に譲って、保険金を受け取ったあと一人暮らしを始めて大学も辞めた。
そのあとは父親が残した金を無駄に浪費するのもしのびないから、バイトで稼いだ金で生活してた。
大学を辞めてからは友達とも一切連絡をとってないし、正直元の世界に戻れるとしても、戻りたいとも思わない。
こっちの世界では確かに日々命の危険はあるんだろうけど、刺激的な毎日を送れそうな気がする。
それを想像すると久しぶりにわくわくしてる自分に気づいて、なんか俺生きてるって実感が湧いてきたんだ。
だから、ここでは自分の思うように、自分のしたいことを優先して生きていきたいと、そう思った。
「……あ、ごめん。無神経だったね」
「いやいや、別に気にしなくていいって」
「……うん。そうだよね、何の理由もなくそんな着のみ着のままで出てくる訳ないよね。ごめん」
本当に気にしてないからそんなに意気消沈しなくても。恩人にそんな表情されると俺のほうが悪い気持ちになってくるし。
「あー、それで、さっきの話に戻るけど、俺も冒険者になりたいからギルドの場所を教えてもらいたいんだけど」
「……そうだったね。ギルドは玄関を出て真っ直ぐ行って、少し大きな通りを左に曲がった先にあるよ。大きな建物だしすぐに分かるはずだよ」
「真っ直ぐ行って左ね。オッケー、じゃあちょっと行ってくるわ」
「あ、そうだ。アスマ、そういえば君ってレベルはいくつなの?」
あ、そういえばレベルがあるって話を聞いてたのに、チェックしてなかったな。どうせ1だとは思うけど。
「レベルってどこで調べられるんだ?」
「え? 知らないの?」
無知ですまんな。まだこっちの世界では0歳だから堪忍してくれな。
「あぁ、知らない」
「えっとね。じゃあステータスの開き方もわからない?」
「おう」
ゲームみたいな感じでステータスをポップアップさせるイメージで開いたりするのかな?
うぉ! 出た!
本当に目の前に半透明なステータスウィンドウっぽいものが出てきやがった。
「ごめん、開けたわ」
「え? 本当に? すごいね。普通開くコツが掴めるまではギルドか教会にある魔道具で補助してもらわないとできないのに」
「うん。俺もびっくりしてる」
なんか一気に現実感が薄れてきたな。
ここ実はゲームの中なんじゃないのか? って思えるぐらいには不自然な光景だ。
まぁこんなリアルなゲーム実際作れるとは思わないけどな。
「それで、レベルはいくつだったの?」
「あぁ、悪い。えっと、やっぱりレベル1だな」
「え? レベル1?」
「ん? どうした、そんな驚いた顔して」
さっきから驚きっぱなしだね、君。
「いや、レベル1でよく今まで平気だったね。ゴブリンにやられるぐらいだから低いとは思ってたけど」
「まぁ、今までは戦闘とは無縁の生活を送ってたからな」
しょうがないね。
「それで? レベルを調べてどうするんだ?」
「その言いにくいんだけど、冒険者になるにはレベル制限があってね。レベル5以上じゃないと資格がもらえないんだよ」
「……あー、そういうあれか」
確かに、個体差はあっても初期レベルじゃ仕事を任せるにしては頼りにならないもんな。
冒険者っていうのはギルドから任務を受けてそれを達成することによって対価を得る職業だ。
何らかの素材の採取にしても、魔物の討伐にしても活動するのは街の外がメインになるだろう。
そうなると必然的に魔物と戦闘になるのは必須だろうし、最低限の戦力は必要になるというわけだ。
「なるほど、そういうことなら分かった。じゃあ先にレベルを上げるのが先決ってことだな」
「うん。まぁ、レベル5ぐらいならすぐだから僕も手伝うよ」
「本当になにからなにまで申し訳ないけど、正直助かるよ」
俺一人でレベリングになんて向かったらその後の展開なんて容易に想像できるからな。
まだ借りも返してないのに更に借りの上乗せか。
ちょっと自分が情けなくなってきた。