問題19
配置に関してはさっきまでとほぼ同じで、違うのは相手との距離。
ガルムリードとアンネローゼは、一息には詰められない位置を付かず離れず維持し、クレアも後方で待機。
俺はそれとは反対に、無防備を装って歩みを進める。
「……あー、怖ええ」
口から心臓が飛び出しそうなほどの緊張感に襲われながら、それを誤魔化すように今からやることを頭の中で繰り返す。
重要なのはタイミングと制御。
どちらか一つでも間違えれば、良くて大怪我、最悪瀕死。
こんな状況で平然としてられるほど、俺の心は強くない……でも。
「……でも、足は動くんだよなぁ」
一歩一歩着実に進む足に固さはなく、思わず笑ってしまうぐらいいつも通りに動いてくれる。
それというのも、ミリオがこの手の無茶振りを、それなりの頻度で課してくるからだろうけど。
……ただ、それは俺ならそれぐらいはできるという、彼なりの信頼の表れであり、つまり当てにされているということだ。
「うん。なら、応えるしかないよな!」
俺が最も信頼している男からの指示を、完璧にこなすことで報いてやる!
「……!」
その決心を胸に、あらためて集中力を高めていたところ、鉄蟻の触覚が小刻みに揺れるのを確認する。
おそらく、すでにこちらの位置は捉えられているとみた方がいいだろう。
なら、ここからが勝負だ。初動からの流れを掴み取れるかどうか、そこですべてが決まる。
「っ!!」
鉄蟻が腹部を震わせたのを目視すると同時、体を前傾に倒し、一気に距離を詰めにかかる。
一歩、二歩、三歩、四歩。そこまで進んだところで《危険察知》が発動。
合わせるように《死気招来》を発動。全力で相手に向かって低空跳躍し、上体を仰向けに倒すようにして滑り込み、それと同時に目の前で放たれる鉄蟻の酸。
「――それを、待ってたんだよ!」
『アクティブスキル《力の収束》発動』
瞬時に膨大な魔力を右手へと収束、眼前に突き出し、解き放つ。
「《ウインドボール》!」
斜め下から放った風魔術は、酸を巻き込むようにして打ち上がり、天井に激突するとけたたましい破裂音とともに、その中身をぶち撒けた。
「たっぷりと、浴びやがれ!」
囚われていた風の球が消えたことで解放された酸は、真下にいた鉄蟻に雨のように降り注ぎ、堅牢な外殻を濡らしていく。
直後、急に狂ったように暴れだした鉄蟻の外殻からいくつもの煙が上がり、発生元を見ればその部分には拳大の穴が空いていた。