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 そこに居たのはセシリィとミーティアだった。

 爆風によって吹き飛ばされた結果、いつの間にか元いた場所まで戻ってきていたようだ。


 「あぁ大丈夫。ごめん、時間稼ぎすんのそろそろ限界だ。そっちの準備はどんな感じだ?」


 俺のその質問に対して、セシリィ、ミーティアが返してきたのは頼りになりそうな笑顔だった。


 「良い時に戻ってきたわね。丁度今準備できたところよ」

 「うん。あんまり時間がないから良かったよー」

 「時間?」

 「えぇ、今から見せる術は《精霊宿し》。精霊を武器に宿らせることで、一時的に武器を魔武器と化す術よ。でも武器に掛かる負担が激しすぎて普通の武器だとそれに耐えられなくてあっという間に自壊しちゃうのよ」

 「は? 魔武器化? 何だそれ、そんなことができるのか? すげぇな」

 「まぁね。だけど、この程度の武器だったら本当にすぐ壊れちゃうからあんまり使いたくなかったんだけどね」


 確かに武器が自壊するデメリットがあるなら使うのを躊躇うのは分かるが、それにしてもとんでもない奥の手を持ってやがったな。武器の魔武器化?そんなものゲームの中でさえ聞いたことがないぞ。


 「でも、そんなことを言ってられる状況じゃないわよね。さ、それじゃあやるわよティア!」

 「うん!」


 精霊の見えない俺には二人が何をしているのか分からないが、掲げた剣から何か圧力のようなものが溢れだしているのを感じる。そして、徐々にそれが増幅されていき、刀身がブレたように感じた瞬間、剣を中心に風が吹き荒れた。


 「うぉっ!」


 咄嗟に身を伏せ、風の奔流に吹き飛ばされないように堪える。そうしている間にそれはすぐに収まったが、刀身を見ると先程よりも更にブレが激しくなっている気がする。

 さっきの風を刀身に収束させたのか? 剣が耐えられないとは言っていたが、当たり前だ。あんなものを宿らせて無事で済むわけがない。収まっているのが不自然なぐらいだ。

 そして、こちらに迫っていたオークが魔剣を振りかざし火球を放ってくる。それは俺を狙って放たれたものだったが、俺を庇うように前に出たミーティアがその手に握られた長剣を振り下ろすと、火球がこちらに到達する前に爆発してしまった。

 今のは風の刃を飛ばしたのか? その不可視の斬撃で火球を切り裂くことで爆発させたということなんだろうが、何も見えない以上オーク側から見れば何が起きたのか理解不能だろう。

 だが、オークはそれを気にも止めず猪突猛進してくる。セシリィとミーティアも正面からオークとの距離を詰め、両者の距離がゼロになろうとした瞬間、オークが魔剣を上段に振りかぶり爆炎を放つ予備動作に入る。危ない、と叫ぶにも今からじゃ間に合わず、振り下ろされた魔剣から爆炎が二人に目掛けて暴威をふるう。

 爆発の余波により様々なものが巻き上がり両者の姿が確認できず、最悪の展開を想像してしまうが、その瞬間、風が吹き荒れ目隠しになっていたものを吹き飛ばす。

 そこには無傷の二人がいた。それどころかオークへ斬り掛かり、その硬質の肌を一振りするごとに切り裂いていく。

 剣を強化する前に斬りつけていた時には全力で繰り出した一撃でようやく少しの傷を負わせるのが精一杯だったというのに、今は高速で振るうその一撃一撃が明確な傷をオークの身に刻んでいく。

 苦し紛れにオークがミーティアに向け爆炎を放つが、ミーティアが長剣を構えその刀身から解放されたであろう風の奔流がそれからミーティアを守るだけでなく、爆炎を押し返し、逆にオークがその被害を受けていた。

 予想外に受けた爆炎にたまらず後ろに身を退いてしまうオークだったが、その爆炎の中から飛び出してきたセシリィがそれに追撃をかけながら叫ぶ。


 「こらティアッ! 急に爆発を押し返すんじゃないわよ! 危ないでしょっ!」

 「あぅ、ごめんなさーい!」


 傍目に見ていると何とも緊張感に欠けるやり取りだが、圧倒的に二人が優位に戦闘が進んでいるのでそれも仕方がないのかもしれない。それに、その間にも二人は動きを止めることなくオークに斬撃を浴びせ続けている。

 膂力ではオークの方が勝っているのだとしてもそれ以外の部分において二人が強過ぎた。速度、技量、行動予測、それに魔剣化しているあの剣。オークの魔剣の能力を完全に封殺している。

 この時点で二人の勝ちはもう決まったようなものだ。

 そして、決定的な一撃が決まったのは次の瞬間だった。

 オークが二人を振り払おうと魔剣を横薙ぎに一閃し、それを屈んで避けた二人は、隙を晒したオークへと斬撃を放つ。

 ミーティアはオークに正面から肉薄し、その脇腹から肩口に抜けるような斬り上げによる一撃を。

 セシリィは伸びきったオークの腕へ、交錯させた双剣で下から斬り上げるような一撃を。

 それを受けたオークは胴体に致命的な深手を負い、片腕は肘から下が断ち斬られた。

 その腕に握られていた魔剣ごと腕が空中に舞い、重量を感じさせるような音を響かせ地面に投げ出された。

 腕と胴体からおびただしい量の血が溢れだし立っているのが不思議なほどの重傷を負ったオークに、セシリィが剣を突き付け、止めを刺そうとそれを振りかぶる。

 だが、その瞬間セシリィの手に握られていた剣の刀身が砕け散り、それと同時にミーティアの長剣も砕け散る。

 そして、刀身に込められていた暴風が解放されその中心に居たセシリィ、ミーティア、オークと魔剣がその猛威に巻き込まれ吹き飛ばされる。

 魔剣は勢いよく俺のすぐ真横にあった木に突き刺さった。

 ミーティアは木々の合間を縫うように飛ばされ、あっという間にその姿が見えなくなった。セシリィは吹き飛ばされた先にあった木に背を強かに打ち付け、その小柄な体は重力に引かれ地面に崩れ落ちる。気を失ったのか、ピクリとも動かずその場に倒れ伏している。

 そしてオークは、吹き飛ばされたもののその重量により大した距離は移動させられず、セシリィのすぐ近くに立っていた。

 …あ。まずい。

 瀕死状態のはずのオークだが、それでもまだ生きている。魔物の生命力は脅威だ。首だけになろうとも少しの間は動くほどだ。

 その懸念が的中したのか、オークの顔が地面に倒れ伏しているセシリィに合わされる。そして、そちらへ歩を進め始めた。

 だめだ。このままじゃセシリィが危ない!

 どうする? この距離から駆けつけたんじゃ間に合わない。…ならこれしかないだろ!

 背中から槍を引き抜いた俺は、オーク目掛けて全力の投槍をその頭目掛けて投げ放つ!

 投擲スキルの効果で一直線に飛んだ槍は、投射の効果により鋭く速く、オークの頭に吸い込まれるように到達し、勢いよくぶち当たる。

 だが、オークの頭に当たった槍は刺さることもなく、直後に穂先が折れ、破片を撒き散らせながらその場に落ちる。

 は? 直撃してこれか。傷の一つすら与えられていない。相当に頑強なんだろうとは思っていたが、これほどかよ。

 オークは緩慢な動きで首を巡らせ俺を視界に捉える。

 よし、意識をこっちに向けられた。そうだ、俺はここにいるぞ! お前が殺したくて堪らない存在がここにいるんだ。だから、こっちに来い!

 だが、すぐに視線をセシリィの方へと戻すと、歩みを再開させ始めた。

 何でだよ! お前の相手は俺だろうが! 余所見してんじゃねぇぞ!

 俺は腰から小剣を引き抜き、これもオークへと投擲する。

 その一撃もオークの肌に傷を付けるには至らず、俺の手元にはもう武器はない。

 いや、まだだ! 革袋をまさぐり二つだけ残っていた石を取り出し、腰に下げているナイフそれにポーチからスコップも抜き出し、渾身の力を込めて投擲する。

 だが、そのどれもがオークにはまるで痛痒にも感じていないかのように無視される。その歩みは止まらない。

 駄目だ、駄目だ! 考えろ! いや、普通に考えてる時間が勿体ない、そう思い思考加速を発動させる。デメリットなんて今は気にするな。それよりも何か手を考えなければ、このままじゃセシリィが殺されてしまう。

 投げるための武器はない。距離を詰めるにも時間が足りない。どうする。何か、何かないか。…起死回生、あれなら。いや、自傷で発動させるにしても時間が掛かり過ぎる。その他のスキルに今の状況を挽回出来るだけの効果を持ったものはない。

 そうだ、レイエル! レイエルなら精霊術でどうにかできるんじゃないのか! でも、さっきからこのピンチの状況で何もしないということはレイエルに何かあったのか? 彼女ならこの光景を見て何もしないとは思えない。だとしたら本当に何か…。

 ミーティアも至近距離で暴風の直撃を受けて吹き飛ばされてから姿が見えない。なら俺がどうにかするしかない。でも、もう本当に手が、ない。

 …駄目だ、諦めるな! 何でもいい、考えろ。この状況を覆す何かを。

 …!? そうだ、魔剣!

 さっきの暴風で吹き飛ばされてきた魔剣。投げるには大きすぎるが、あの魔剣の能力ならここからでも牽制の一撃を放つことができる。なら、早く行動に移すべきだ、思考加速は発動時間が延びればそれだけ副作用が激しくなる。

 そして、思考加速を解除し、知覚時間を元に戻す。

 その瞬間に激しい頭痛が脳へと突き刺さるように響くが、今はこんなものに惑わされている時間はない。歯を食い縛り、痛みに堪え、魔剣へと視線を向ける。あった。

 すぐさま魔剣のもとへと駆け寄り、木に突き刺さった刀身を力任せに引き抜く。木に足を掛け全力で引いたため、そのまま後ろに倒れ込んでしまうが、すぐに立ちあがり剣を持ち上げオークに視線を向ける。

 先程よりもセシリィとの距離は近づいているが、あの距離ならまだ火球を直撃させても巻き込まれない距離のはずだ。

 ただ、一つ問題があった。

 俺は、この魔剣の使い方を知らない。だが、やるしかない。他にこの状況をどうにかできる方法なんてない。

 オークはどうやっていた? 確か、剣を振り上げて…。

 両手で持っても尚、腕にずしりとした重みが伝わってくるが持てないほどではない。

 問題はここから、発動までのプロセスが不明な点だ。

 魔剣なら魔力を注ぎ込めばいいのか? でもオークが魔剣を使っていた時、特に魔力の反応は感じなかった。だが、それぐらいしか思いつく要素がないのも事実だ。ならとりあえず試してみるしかない。

 握り込んだ柄に魔力を流し込むように、体内から魔力を腕へと移動させていく。もうほとんど残っていない魔力だが、まだ空ではない。それを体の奥底から引き上げて掌へと移動させる。

 すると、そこから魔力が吸い込まれるように魔剣へと流れ込んでいく。…なるほど、魔力を感じなかったのは体の外に魔力が漏れることなく、こうやって魔剣に流れていたからだったのか。ただ俺が魔力を使っていないと勘違いしていただけだったみたいだ。

 魔力を流していくと徐々にその刀身が淡く発光し始めた。

 きた。オークが使っていた時にも見たこの反応だ。

 だが、この後は? 魔術と一緒なのだとしても、俺は火球なんて使えない。いや、魔術とは違う。全く一緒なんだとすれば魔剣なんてものは必要ない。そんなものが存在している意味がない。ならこれにはこれの扱い方があるはずだ。分からないが、火球を作り上げるところまでがこの魔剣の能力の一つなんだとすれば後はそれを発現させるイメージと、狙いに向けて放つイメージをしろ。

 思い出せ、あの火球を。

 頭の中に何度も見た火球を思い起こす。それを目の前に展開するイメージを描く。

 すると、魔剣の刀身から光が一点に集まり、それが火球へと姿を変えた。

 よし、後はこれを放つだけ。標的はあいつだ。いけ!

 投擲を放つ時の、相手に向け一直線に飛翔させるイメージを脳裏に思い描く。

 直後に射出された火球はイメージ通りの軌跡を辿り、オークの頭部に直撃し、爆発した。

 先程までとは違い、爆発の衝撃を受けその体が傾く。

 今だ!

 俺は魔剣を振り下ろし、剣先が地面に付くかどうかというぐらいに下げ、引き摺るようにしてオーク目掛けて走り出す。

 間に合え! あいつが体勢を崩しているこの間に、この距離を走りきれ!

 魔剣が重い。だが、素手であいつをどうにかできるとは思えない。ならまだこれを捨てるわけにはいかない。

 全力で走るが、遠い。距離的にはそこまでのはずなのに距離以上に遠く感じる。

 そして、俺が辿り着くよりも早くオークの方が体勢を立て直してしまった。

 距離としては微妙だ。オークがセシリィのもとに辿り着くのが先か、それとも俺がオークのもとへと辿り着くのが先か。

 急げ! 何としてもあいつより先に辿り着くんだ。火球を放つにはもう魔力が心許ない。そうである以上もう足を止めている暇はない。走れ!

 だが、距離が近づくにつれ、先に目的に辿り着くのがオークの方が先だということが分かってしまった。

 くそっ! 読み違えた!

 魔力が枯渇寸前になったことで先程より更なる倦怠感が俺を襲い、それに加えて魔剣の重みが一歩足を進めるごとに俺の体力を削っていく。

 あと少しなのに。ほんの少しで届くのに、その距離を詰めるすべがない。高速で動くためのスキルか魔術があればどうにかなるのに、俺はそのどちらも持っていない。

 そもそも魔術はもう使えない。魔力がない。スキル。スキルに何かないか。…新しく覚えたスキル。力の収束と、感覚強化と、投射。投射は違う。感覚強化も違う。力の収束…。確か力を一点集中することで攻撃力を高めるスキルのはずだが。力を一点に集める。もしかしてこれなら…。

 迷ってる暇はない。こんな場面で賭けなどするべきではないが、今更だ。今は手段を選んでいられる場面じゃない。自分に出来ることを限界以上にやりきらなきゃいけない場面だ。使ったことのない力だろうが使いこなしてみせろ。

 全力で走りながらじゃ満足に使えるとは思えない。なので、また思考加速を発動させる。

 短時間でまたこのスキルを発動させるなんて、副作用のことを考えると正直気が気じゃないがそんなことを言っていられる状況ではない。使えるものは使うただそれだけだ。

 知覚時間が延びた世界で意識を足に集中させる。今地面に付いている右足に力を収束させるようなイメージを思い浮かべる。感覚的には投擲の時に指先に力を集めるような感じだ。実際、このスキルを獲得したのは投擲でゴブリンを狩っていた最中だから間違いではないだろう。


 『アクティブスキル《力の収束》発動』


 よし、成功だ。

 なら、後は一点に集まったこの力を解放するだけだ。

 そして、思考加速を解除。先程よりも更に増した頭痛のせいで前のめりに倒れ込みそうになるが堪え、その痛みを抱えたまま力の収束を発動させた右足で地面を思い切り蹴り抜く。

 すると、それまで大して進まなかった距離が一気に縮まり、それどころかオークの目の前に来て尚その速度は落ちることなく、このままじゃ激突してしまう。

 …いや、むしろそれは好都合だ。どうせ俺の攻撃じゃダメージを負わせられるか怪しかったんだ。ならこのまま魔剣をぶち込んでやる。

 俺は引き摺るように持っていた魔剣を体の前に持ってくると、そのまま剣先を正面に突き付け、その勢いのままオークに迫る。

 それに気付いたオークが体ごとこちらに振り向くが、時既に遅く、剣先はもうオークに当たる寸前だ。


 「貫けぇぇっっ!!」


 そして、剣先が丁度ミーティアが斬り裂いた傷の上から体内に滑り込み、肉を貫く感触を手に味わった後、背の皮を突き破り貫通し、それでも勢いは止まらず、その背後にあった木に剣先が突き刺さり、オークの体をそこに縫い付けることでようやく止まることができた。

 今の一撃でオークは力尽きたのか完全に沈黙してしまっている。

 本当ならここで爆炎を発動させ、その体を爆破してしまった方が確実なんだろうが、さすがに俺も限界だ。魔力枯渇による倦怠感。思考加速の連続使用による重度の頭痛。初使用のスキルである力の収束により、加減が分からず全力で踏み切った右足がそれに耐えきれなかったのか激痛を放っている。

 もう全身ボロボロだ。

 最大の壁であるオークは倒した。周辺には魔物の影もない。

 なら、とりあえずは終わりと思ってもいいんじゃないかと思う。

 だから、俺はその場で背中から倒れ込み大の字になり、深いため息をつく。


 「…つっかれたー」


 もう一歩も動きたくない。少なくとも誰かが来てくれるまではこのままでいよう。体力が限界だ。

 でも何とか無事に生き抜くことができた。その達成感が心を満たしていく。長く長い一日だったが、ようやく終わりを迎えられそうだ。

 …まぁ、体力が回復したらここから家に帰らないといけないんだけどな。

 でも、これは夜の間に帰るのは無理そうだな。ごめんクレア。約束守れそうにないわ…。

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[一言] 何とか64話まで読みました。が、たった数秒の出来事に一体何文字使うんだという読むのに疲れました。テンポが悪い上に説明がくどく感じました。説明が少ないとわかりにくいそれは一つの状況を説明する文…
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