問題17
「んぎっっ!? お、もっっ!?」
だが、交差させた腕で受けた瞬間、潰されてしまいそうな圧力に襲われ、体を支えている足からも嫌な音が聞こえてくる。
「くっそ、野郎がっ! んなもん、押し返せるわきゃ、ねぇだろぉがっ!」
同意の声を出すことすらできず、押された腕が頭を圧迫し、全身から汗が噴き出すほど熱くなっているのに、なぜか背筋に冷たいものが流れる感覚が走る。
くわえて、震えが止まらず視界もぼやけてきた――ところで、四角い塊が視界の端に落ちたのが見えた。
「《アースウォール》!」
その声に反応するように、それは鉄蟻の脚を斜めから突き上げるような形で変化する。
そして、直撃を受けた脚は、こちらの腕を滑るようにして落ち、地面を激しく叩いた。
「一旦退くぞっ!」
衝撃と、急に圧迫から解放されたことで、ふらつき崩れ落ちそうになったところで、ガルムリードに引っ張られ鉄蟻から離れる。
「……はぁっ、はぁっ……ご、ごめ……げほっ、げほっ!」
「んなこたぁいいから、さっさと息整えろ。来んぞ!」
呼吸を整えるのもそこそこに、鉄蟻がこちらへ迫ってくる。
獣ほどの俊敏さはないが、鈍重さを感じることはなく、思っていた数倍は速い動きに身が竦む。
「正面は無理だ、左右に分かれるぞ! 攻撃の糸口を見つけねぇと話にならねぇからな!」
そう言って鉄蟻の左側に回り込むガルムリードと、後を追うアンネローゼ。
それに倣って、こちらはクレア共に右側へと回り込む。
「力押しで勝てねぇんなら、脚を狙って体勢を崩させるしかねぇ! 隙を見つけたらガンガン仕掛けろ、アンネローゼ!」
「りょーかーい! やっちゃうよー!」
「……クレア、こっちも脚狙いで行こう! どうにかして動きを止めるから、俺が合図したら斬ってくれ!」
『うん! 無理はしないでね!』
クレアの言葉に「おう!」とだけ返す。
……俺は、忘れてしまっていた。
ディラックさんがあまりにも簡単にこいつらを倒していたから、以前にテレサが言っていたことを。
『ええ。全員で力を合わせても、鉄蟻単体に苦戦を強いられることになるでしょうね。変異種が相手となると、勝てるかも怪しいところです』
そう言っていたのに、この体たらくだ。
「かっ、こっち狙いかよ! いいぜ、来い!」
考えたうえで失敗することは悪いことじゃないが、後先を考えない――脳死での失敗は最悪だ。
それが仲間を危険に晒すなら、なおさらこれ以上無様は晒せない。許されない
「行くぞ、クレア!」
『うん!』
力の温存なんて考えるな、必要だというのなら全部使ってでも、絶対に役目を果たす。