問題16
「二丁、あがりだ」
胴体を縦に裂かれ、更に止めの一撃を刺された鉄蟻は、傷口からおびただしい量の体液を溢れ出させ、周囲を汚していく。
それを尻目に、彼は剣身についたそれを振り払うと、剣先で最後の一体を指し示した。
「さぁ、次はてめえらの番だぞ! ばしっと決めてこい!」
自分の仕事はお終いとばかりに言って、見守り姿勢に入ったディラックさん。
だが、敵対行動を止めたとしても、鉄蟻からの敵意は残っているので、当然のごとく噴射された酸が彼を襲う。
「いや、俺はもういいよ。あーあ、これだから虫型の魔物は嫌いなんだよ。実力差ぐらい読み取れっての……」
ぶつくさと面倒そうに言いながらも、軽い動きでそれを躱わし、「はよ行け」というように、手振りでこちらへ指示を出す。
「それじゃあ、アスマとガルム。二人で鉄蟻の動きを止めて。アンとクレアは二人の後ろで攻撃の隙ができるまで待機。僕とテレサはここから必要に応じて魔術で支援を」
口早に出されたミリオの簡単な指示に、全員が頷いてみせ、視線を鉄蟻へと向ける。
「ここで無茶をする必要はないからね。駄目だと感じたらすぐ退くように。――行こう!」
合図と共に、その場からガルムリードと飛び出す。
スキルでの強化に加え、ルキナさんからもらった強化が効いているおかげで普段より体が軽く、一息の間に鉄蟻の下へたどりつく。
そこでようやくこちらへ意識を向けた鉄蟻は、振り向きざまに開いた顎で挟み込もうとしてくるが、紙一重でそれを避ける。
「う、おっ!?」
遠間に観察していた時には感じなかったが、大質量の物体が想像以上の速さで目の前を横切る様には、たしかな恐怖を感じ、背に冷や汗が流れる。
だが、なんとか所定の位置へ飛び込むことには成功し、ひとまずは安堵する。
「ガルム! こいつ、思ったよりずっと速くない!?」
「かっ、そりゃそうだろうよ! なんたって格上の相手なんだ! 気ぃ抜くんじゃねぇぞ、アスマ!」
楽しそうに、でもどこかヒリつきを感じさせるような気配を漂わせ、ガルムリードはじりじりと間合いを調整している。
その姿を見て、少し浮足立っていた自身の心を落ち着かせ、彼に合わせるように動く。
「――来るっ!!」
ガルムリードが言った直後、わずかに身を傾けた鉄蟻の前脚が持ち上げられ、即座に振り降ろされる。
それを、振り切られる前に止めるため、ガルムリードと共に前へ出て、体当たり気味に受け止める。