問題13
「ふーん。楽しい楽しい食事中ってわけだ」
ディラックさんの言うとおり、鉄蟻たちは二、三体ずつが壁際で頭を突き合わせるように固まっていて、その大顎で砕いた鉱石のようなものを貪り食らっていた。
あんなに硬そうなものを簡単に粉砕するぐらいだから、もし手足を挟まれたりなんかしたら、たまったもんじゃないだろう。
「ああ。通常であれば、奇襲で即座に殲滅可能だが……さて」
「おう。あいつらの殻が黒鋼並みに硬ぇってんなら、ちっとばっかし話も変わってくるわな」
「あそこのドワーフ連中が倒せる程度なら、さすがに黒鋼ほどじゃねぇだろ」
眼光鋭く鉄蟻を観察するフェイリアスさんの言にガトーさんが応え、ディラックさんが続く。
「それに、この面子で手こずるなら、それこそ即撤収案件だろ。対策万全の上級パーティーにでも任せるべきだ、ってな」
「がっはっは! 違いないっ!」
それは間違いないだろう。
個人で竜を狩れるディラックさんに、上級冒険者目前と言われているパーティーが二つ。
これだけの戦力が揃っていて、雑兵ともいうべき魔物相手に苦戦を強いられるようでは、女王の存在を確認するどころの話ではなくなるからな。
「たしかに。では、確認の意味も含めて、その質を見極めてみるとしよう」
「ま、気楽に行こうぜ。と、そうだ。フェイリアス、その間こいつ預かっててくんね?」
彼は、シエラの背を軽く押し出すようにして、勝手にも思える頼みごとをするが、その理由をなんとなく察したのか、フェイリアスさんはなにを聞くでもなく「……了解した」とだけ返した。
「さて、と。ほんじゃ、とりあえず俺たちは向こうの一団もらうから、なんかあったらでけぇ声で呼んでくれ」
奥まったところにいる三体の鉄蟻を指差し、我先にとそちらへ歩き出すディラックさん。
そんな彼の行動を止めることはせず、リーダーたちはそれぞれが承諾の言葉を返す。
「それでは、君たちも存分に励んでくるといい。ルキナ」
「はいはい。《フィジカルブースト》《フィジカルプロテクション》《マジックプロテクション》《マジックコントロール》」
フェイリアスさんが声を掛けると、ルキナさんからこちらの全員に向けて、各種補助魔術が掛けられ、それを終えると彼女は笑顔でこちらに小さく手を振ってみせた。
「じゃ、頑張ってね〜」
「うん。ありがとう。そっちも気をつけて」
そんな彼らなりの激励と共に送り出され、ディラックさんの背を追いかける。