問題11
「まじかよ。お前、ほんとなにも知らねぇな。ミリオくん、こいつに俺がどれだけ高等なことをしたのか、教えてあげなさい」
「……うわぁ」
自分のすごさを伝えるために他人を使うとかありえねぇ、と思っていたら、案の定みんなも似たような感想を抱いたのか、微妙な表情を浮かべていた。
「うわぁ、とか言うな。ほれ」
「……あはは。うん。でも、実際すごいことだよ。そもそも、固定化を使うためには、前提として補助と付与の魔術適性があることと、中位以上の魔力強度が必要だからね」
「それは、たしかにすごいかも。っていうか、二つ以上の適性が必要ってことは、あれだ。ミリオが今練習してる、複合魔術ってやつ?」
「そう。それを、あれだけの速さで発動できるんだから、ディラックさんの魔術の腕が相当なものってことが分かるよね」
そう言われて、一気にそのすごさのほどを理解することができた。
ミリオは、あのシャーロットが褒めるぐらい、飲み込みが早くて器用なやつだ。
そんな彼でさえ、複合魔術の習得にはまだまだ時間が掛かると言っていたことから、それがどれだけ難易度の高い技法なのかということが窺える。
「おお。じゃあ、めちゃくちゃすげぇじゃんか!」
「はっはっは。だろ? ま、戦闘用の術じゃねぇから、基本飯が腐るのを防ぐ程度にしか役立ってねぇけどな」
役に立ってないんかい……。
それなのになんでこんな自慢気なんだよ、この人。
『でも、その使い方で合ってるんだよね? 本で読んだことあるよ』
「あ。それなら私も読んだことがあります。勇者について書かれた物語の一節ですね」
『うん。食べ物の鮮度を維持するために、新しい魔術を生み出したっていうやつ。面白かったなぁ』
「え? なにそれ? ど、どうやって?」
あまりにも衝撃的な内容だったので、つい会話に横入りしてしまったが、そもそも魔術って自分で創れるもんなのか?
『うーん。どうやってかは書いてなかったけど、そういう力を持ってたみたいだよ、勇者様』
「簡単なところでは、アスマさんの使っている《消臭》なども、勇者が生み出した魔術という話ですし、彼女の偉業を考えればあながち作り話ということもないと思いますよ」
「……そうだったんだ。やっぱ、すごいんだな、勇者って」
いや、すごいことを成し遂げたからこそ勇者として讃えられてるんだろうけど、俺からすれば本の中の登場人物ぐらいの認識だから、現実味がなさすぎるんだよね。
「はっ。分かったか? つまり、勇者と同じ魔術を使える俺のすごさは、勇者並みってことが」
「いや、それは言いすぎだろ」
どう考えても、さすがに調子に乗りすぎだろとしか思えない。
「でも、人並み以上に剣も魔術も使えて、竜を倒せるぐらい強いあんたは、本当にすごいと思うよ」
「そうだろ。そうだろ。憧れてもいいんだぜ?」
兜の下でほくそ笑んでいるのが分かるほどに浮ついた声で、そう言ってくるディラックさんに、苦笑いで応えながら、適当に返す。
「はいはい。そうっすね。まぁ、そのなんでもできる万能っぷりには憧れないでもないけどさ」
実際、一人でなんでもこなせるというのは、ある意味では俺が目指しているところであり、到達点でもある。
まぁ、俺の能力的に可能かどうかと言われれば、難しいと答えるしかないのが悲しいところだけど。
と、そこまで考えたところで、向こうからの反応がないことに気づき、そちらを窺うと。
「――あ?」
なぜか足を止め、こちらを射殺さんとばかりに視線を向けた彼が、低く唸るような声で威圧してきた。