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問題10

「よう、なんか見っけたか?」


 そうしているうちにフェイリアスさんと話していたディラックさんが、こちらへ声を掛けてきた。


「ううん。これといって特別なものは何も。そっちは?」

「なーんも、だ。不審点はあっても、情報がなさすぎて推測を立てるぐらいしかできねぇわな」


 成果なしとばかりに、おどけるよう肩をすくめて見せた彼は、ぐるりと頭を巡らせる。


「お前はどうだ。この場所に見覚えは?」


 そしてシエラを見つけると、そんな質問を投げ掛けた。

 しかし、彼女はそれに対して首を左右に振ってみせる。


「分からないわ。とにかく必死だったし、周りを気にする余裕なんてとても……」

「ほーん」


 訝しむような、そうでもないような、微妙な反応をしたディラックさんは、「ま、いいや」と言うと、踵を返し歩き出した。


「なんか思い出したら声掛けてくれや、ってことで先進むぞ」


 どうでもよさそうに言ってみせ、彼はついてこいと背中越しに手招きする。

 実際、これ以上留まっても時間の無駄にしかならなそうなので、特に示し合わせることもなく、その後につづく。


「しっかし、あれだな。やっぱ、こういう土ん中ってのはジメジメして(かな)わねぇな」

「そうですね。曇り止めをしているはずなのに、少し経つと眼鏡が曇ってしまって困ります」


 さっきからテレサが定期的にごそごそしていると思ってたけど、そういうことか。

 たしかに、この湿気だとそうなってもおかしくはないだろう。


「あ? そういうことは早く言えよ。ほれ、そいつ貸してみな」

「え? あ、はい!」


 突然そんなことを言われたテレサは、一瞬呆然としてみせたが、なにかを思い出したかのようにハッとして、返事よく眼鏡を手渡した。


「《イモビライゼーション》」


 受け取ったディラックさんが、なにかの魔術をそれに掛けると、全体がわずかに発光するが、すぐに収まり、「ほらよ」と優しい手つきで彼女に返した。


「ありがとうございます、ディラックさん」

「はいよ。効果が切れたらまた掛けてやっから、遠慮なく言ってきな」

「はい!」


 初めて会った時から、ふざけた言動が多かっただけに、めちゃくちゃな人だと思い込んでいたけど、根はいい人なのかな?

 と、思いつつ、それよりも気になることができたので早速質問してみる。


「なあ、今のってなんの魔術?」

「ん? ああ、今のは《イモビライゼーション》つって、物体の劣化やら変質だとかを防ぐ魔術だ。俗に固定化魔術なんて呼ばれてるやつなんだが、知らねぇ?」

「うん。初めて聞いた」


 聞く限りではかなり便利そうな魔術だけど、たぶん見たことも聞いたこともない、はず。

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