問題5
それはディラックさんから放たれた当然の疑問だ。
彼女が言うには、黒鋼を採掘するために鉱山へ忍び込んだまでは良かったものの、複雑に入り組んだ通路のどれを進むのが正解なのか、それが分からず手当たり次第に探索を続けた結果――とある魔物に遭遇したのだという。
その魔物の確認こそが、今回の探索任務における目的であり、危惧されていた中でも一番の厄介者。
【スチールアント・クイーン】。
事前にギルドへ報告されていた情報では、鉱員が坑内で遭遇したスチールアントの外殻が、通常のそれと比べ非常に頑強であったことから、おそらくそれが黒鋼を喰らった女王の産卵個体である可能性が浮上し、その実地確認を行いに来たのが俺たちというわけだ。
通常の女王単体ですら、中級冒険者複数人がかりでようやく倒せるといった具合なのに、黒鋼の外殻を持った女王と、無数の取り巻きを相手にするとなれば、坑内に残されているらしい三人の冒険者たちの生存は、絶望的と言っても過言ではないだろう。
「生きてるわよっ! だって、アイツはそう言ってたもの!」
「? 誰が、なんて?」
激昂するシエラの言葉におかしなものを感じたのか、ディラックさんが質問すると、彼女はハッと我に返ったように目を見開き、自分の口を手で抑えた。
「い、いえ。仲間が……絶対に生き残ってみせるから、助けを呼んできてくれって……」
どこかたどたどしく言って、彼女は口を結んでうつむいてしまう。
「あーっ! ディッくんがシーちゃん泣かせたー! いけないんだー!」
「は? いやいやっ! え? 俺悪くねぇだろ、これ」
何故か自分が悪者扱いされ、驚くような反応を見せた彼は、動揺を隠しきれないまま、「なあ?」と、こちらへ同意を求めてきたので頷くと、ほっとしたように息を吐き、シエラを指差してみせた。
「つか、こっちは確認取ってるだけだろうが。大げさに塞ぎ込んでんじゃねぇよ!」
ディラックが強い口調でそう言うと、こんにゃろうとばかりにアンネローゼが彼に詰め寄ろうとする、が。
「アン、少し静かにしておこうね」
「えぇ!? なんで〜!」
その進行は横合いから現れたミリオに阻まれ、そのまま連れて行かれてしまった。
「はぁ。そもそも、勘違いしてるかもしんねぇから言っとくが、誰も手を貸さねぇとは言ってねぇだろうがよ」
「……え?」
呆けたような反応を見せる彼女に、ディラックは言う。
「そもそも、俺らがここに来たのは坑内の探索と、女王の存在を確認することだ。つまりは、どのみちお前と目的地は一緒なんだよ。言ってる意味、分かるか?」
「じゃあ」
シエラが期待を込めたような眼差しを彼に向けると、ディラックは「おう」と答える。
「今すぐって訳にはいかねぇが、行ってやるよ。アリンコ共の根城までな」