秘密3
ハーフエルフ。
物語なんかで目にしたことはあるが、そんな神秘的な存在が実在し、さらにその息子から話を聞けるという事実に、良くないとは思いつつも、心が昂ってしまう。
『……なんていうか、すごいな。いやまぁ、二人からしたら特別感とかはまるでないんだろうけど、平凡な俺からしたら羨ましい限りというか』
『ははっ。これを聞いて、そういう反応をするんだね。アスマは』
『え? そこまでおかしいこと言ったか?』
視界に映るミリオの肩がわずかに震えているのが見え、自分の言葉を反芻してみるが、なにが琴線に触れたのかは分からない。
『あぁ、うん。僕らの常識ではね、混血は恥ずべきものだって忌避されていることなんだ』
『そうなのか? 種族が違っても、人同士なんだから問題ないと思うけど』
できるものはできるんだし、それが自然なことって考えじゃ駄目なのか?
『そうだね。僕個人としても、そう思うよ。でも、一般的な常識とは別に、北の――神聖国を中心にして大陸中に広がっている、【アリスティア教】の教義では、すごく過激な教え方をされているみたい』
『あー、アリスティア教か』
アリスティア教。
それは、神聖国――【神聖国アリスティア】における国教であり、相当数の信者を抱えているらしい巨大組織だ。
なんなら、俺たちの住んでる街にもその教会はあるし、その名前はよく耳にするので、存在自体は前から知っていた。
『うん。なんでも、混血の忌み子は悪魔を呼び寄せる災厄の種だって言われてるそうだよ』
『……いや、悪魔って』
人が何を信じるか、なんてものはそれぞれの自由だし、そこについてとやかく言うつもりはないけど、それはさすがに……。
『えっと、一応聞きたいんだけど、この世界に悪魔なんているの?』
『いない、とは言えないかな。実際に見たことも、どこかに現れたって話も聞いたことはないけど、噂でアンデッドが発生する原因は悪魔の仕業なんだって、聞いたことがあるよ』
『眉唾にもほどあんだろ』
そんないるかどうかも分からない、不確かな存在の悪評を人に押しつけるのはやめてあげてほしい。
『あはは。まぁ、そういう事情もあって、僕らが混血であることはあまり漏らしたくなくてね、今まで話す機会もなかったから言ってなかったんだ、ごめん』
『別に、悪気があって隠していたわけでもなし、謝ることなんてないだろ。しょうがないよ、それは』
『そう言ってくれるなら助かるよ』
ミリオのことだ、話す必要があったんならすぐに話してくれていただろうし、本当に機会がなかったから言わなかっただけなんだろう。
むしろ、誤魔化そうとすればどうとでもできたことを、こうして素直に教えてくれたことに感謝しているぐらいだ。