秘密
その後。
休息も終わり、再び移動を開始した。
獣道のように、ある程度踏みならされてはいるが整備されたそれとは比べるべくもない、道のような場所をフェイリアスさんのパーティに続いていく。
先導してくれている彼らは、さすがに中級冒険者とでも言うべきか、このような足場でも軽快に歩を進め、後続のために枝葉などを切り払ってくれている。
その気遣いをありがたいと感じながら、歩調に遅れがでないよう、こちらも足早に続く。
そうして進めば進めほどに、周囲の木々は深くなっていくのだが、そうなると当然魔物との遭遇も増え、戦闘になること必至と思われた、のだが。
「かっ、またあの強さの魔物をあっさりとやりやがったかよ」
あっけに取られるように出たガルムリードの言葉通り、目の前で繰り広げられたフェイリアスさんのパーティとマッドベアの戦闘は、まるで危なげなく、あっという間に終わった。
マッドベアといえば、身の丈三メートルはありそうな巨躯に鋭い爪と強靭な皮、分厚い脂肪を備えていることに加え、土魔術を扱う厄介な魔物だ。
ただでさえ皮と脂肪に阻まれて打撃も斬撃も効果は薄いのに、《アースアーマー》という魔術で作った土鎧を纏うことで、魔術・物理攻撃に対して過度な耐性まで獲得してしまう。
その重装甲だけでも突破するのは難しいのに、一撃で木をへし折ってしまうような膂力まで持っているので、脅威度は相当に高い。
仮に俺たちが戦った場合、最初からなりふり構わず全力で挑めば、なんとか勝てはするだろう。
でも、それは相手が一体であった場合で、そのあとが続くのかと言われれば、厳しいと答えざるを得ない。
そのような魔物を、彼らは先ほどから幾度も打ち倒しているのに、まだまだ余力を残している様子なので、嫌でも格の違いというものを思い知らされる。
ということもあり、俺たちに出番が回ってくることはなく、どこか手持ち無沙汰になっていたころ、ミリオから念話を繋いで欲しいという合図があったので、半ば条件反射で《思念会話》を発動させた。
『はいはい、どうした?』
『うん。こんな場所での長時間移動が続いてるけど、調子はどうかな、ってね』
どうやら俺の体を気遣ってくれていたようだ。
まぁ、たしかに普段はこんなに深い森の中をずっと歩き続けるようなことはないので、多少疲れは溜まってきている。
でも、先ほどから戦闘を行っていないこともあって、体力的にはまだ余裕はあるし、とくに問題はない。
『あぁ、今のところは大丈夫だよ。ありがとな』
『そっか。ならよかった』
思わず笑みが漏れてしまうほどの、柔らかな声に癒やされつつ、もう少しだけと会話を続ける。




