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 少しの変化すらも見逃さない、というようにミリオの目を覗き込みながら、彼女はそんな問い掛けをする。

 ……エルフの血を引いた者?

 それが意味するところを理解し、驚きと共にミリオへと視線を向けると、彼は困ったような笑顔で首を振ってみせた。


「まだ信じてる人がいたんだね、その噂」

「……噂?」

「それについては、またあとでね」


 こちらが漏らした言葉に彼がそう答えたので、それ以上余計なことは言わずに、頷いて同意を示す。


「ふぅん。答える気はないってわけ?」

「答えるもなにも、噂話なんてものを信じている相手に、こちらから言えることなんてないからね」

「あら、辛辣。でも、間違っているならそう言えばいいのに、な~んか怪し──痛ぁいっ!?」


 まるで意に介していない様子のミリオへと、さらに追及しようとしたところで、ドリスさんが彼女の肩を肘で鋭く突いて言葉を遮る。


「誤解を生むような言い方はよせ。俺たちが知りたかったことは、そんなくだらないものではないだろう」


 相方を窘めるように言って、彼は強制的に彼女の頭を下げさせる。


「ちょっ、痛い痛いっ! 馬鹿力で押さえつけないでよ!」

「……連れがすまんな。これでも、悪気があるわけではないんだ。許してやってくれ」


 自身も軽く頭を下げて謝罪すると、拘束を解いてルキナさんを解放し、同時に後ろへ下がらせた。


「別に構わないよ。今さらその程度のことでムキになったりはしないから」

「そうか。助かる」


 ミリオの返答に、表情を和らげたドリスさんは「では、また後でな」と、区切るようにそう言って、踵を返す。

 ルキナさんは、まだどこか不満げな様子ではあったが、自分の発言を悔やんでか、ばつの悪そうな顔で彼のあとに続いて行った。


「──誰にでも使える技術だよ」


 彼らの背に投げ掛けられたその言葉は、しっかりと耳に届いたようで、二人は振り返って笑顔で応えると、感謝を伝えるように手を上げて、その場をあとにした。





「……で、それ相応の対価ってのは無しか?」


 彼らの姿が見えなくなったところで、微妙な空気をどうにかするためか、ガルムリードがそんなことを口にする。


「あー、そういえば、なんかそんなこと言ってたな」


 と、先ほどのやり取りを思い出して、呟くように言い、ミリオの方へ視線を向ける。


「そうだね。でも、それに関しては別にいいんだよ」

「あ? どぉいうことだよ?」


 ミリオの発言の意味が分からなかったのか、ガルムリードが疑問の言葉を返す。


「そもそもの話なんだけど、あの技は前提として、自力で魔刃を発動させられるのが条件だから、再現性がなさすぎる、っていうのは分かってるよね」

「おう」


 それはそうだ。

 誰にでも使える技術と言えばその通りだが、あれはクレアの魔力操作技術があって初めて成立してるものであり、生半可な術者には再現することは不可能だ。

 まぁ、魔石で加工した鏃を使えば似たような結果は出せるのかもしれないけど、さすがに色々と問題があるからな。


「なら話は簡単だ。ああいう技術もある、っていうのを見せた時点で、あの情報にはもう何の価値もないんだよ」

「……あぁ、そういうことかよ」

「うん。だから、対価はいらないけど、ああやって表面上の答えを渡しておくことで、少しでも彼らがそれを恩に感じてくれるなら、儲けものかなってね」

「かっ。相変わらずいい性格してんな、お前は」


 楽しそうな笑みを浮かべたガルムリードは、笑い声をあげながらミリオの背中を軽く叩き、それに釣られた俺たちも一緒になって笑ってしまう。

 ──ちなみに、妙に静かだなと思っていたら、アンネローゼは、いつの間にかテレサの膝の上で、すやすやと寝息を立てていた。

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