反省会2
「なるほどね。お前の考えは理解できた。だがよ、それを差し引いたとしても、こいつのそれは見逃せねぇ欠点だ。その割を食うのはお前らだってのが分かってるか?」
ディラックさんは、物分かりの悪い相手へ忠告するようにそう言う。
「かっ。んなこたぁ百も承知の上だ」
それを真っ直ぐに受け止めたガルムリードは、「けどな」と言葉を続ける。
「こいつにゃ、それを覆すだけのもんがあんだ。てめぇは知らねぇだろうがよ」
こちらの背中を力強く叩き、彼は「お前も何か言い返してやれ」とばかりに、視線をこちらに向けたまま顔だけを向こうへと振ってみせた。
「え、あー、いや。そんなに評価してくれるのは嬉しいけど、実際俺がもっとしっかりしてれば、みんなが楽に戦えるってのはそうだから、反省しないとなぁ、としか」
あまり卑屈な反応をしすぎても怒られそうな気はするが、結局悪いのは俺なので、ガルムリードのヘイトをこちらに向けることも兼ねてそう答えておく。
「かっ! 反省すんのは当然だ」
「うわっ、と!」
こちらの頭に手を置き、押さえつけるようにしてぐりぐりと掻き回す。
「ただ、勘違いすんじゃねぇぞ? お前の強さは俺たち全員が認めてるもんだ。そこだけは絶対に否定すんな」
「あ、うん」
叱るようにそう言うと、ガルムリードは俺の頭を解放し、ディラックさんを鋭く睨み付ける。
「だからよぉ。こっちが納得してるもんに、これ以上文句つけやがんのなら、ただじゃおかねぇぞ」
「ほぉん。この俺相手にでかい口叩くじゃねぇか。で、もしそうなったらどうしてくれんだよ?」
不敵な笑みを浮かべ、ディラックさんは挑発でもするように、耳に手を当てこちらへ向けてくる。
……まずいな。こうならないように気をつけなきゃいけなかったのに、結局全然止められなかった。
どうしよう。とりあえず、何か場を紛らわせるようにしないと。
「あ」
「そぉだな。まずは、報告するところから始めるか」
口を挟もうとしたが、間が悪くガルムリードの言葉に遮られ、話しかけるタイミングを失ってしまう。
「報告だ?」
「おぉよ。てめぇの苦手なテレサ辺りに、有ること無いこと吹き込んでやったら、てめぇの立場はどぉなるんだろうな?」
「……え? いや、ちょっ」
だが、予想に反して、険悪だった雰囲気は鳴りを潜め、どこか面白おかしい空気が流れ始めた。
「お前それは、ズルだろ? こういう時は、力づくで主張を通したりとか、そういう流れになるやつじゃないのかよ!」
「かっ! なんでてめぇに有利な状況に、わざわざ乗っからねぇといけねぇんだ。今すぐにてめぇを懲らしめんなら、これが一番だろぉが」
ガルムリードの言葉に、「くっ!」と悔しそうな声を上げ、ディラックさんは、少し唸った後に、降参とばかりに両手を上げてみせる。
「あーはいはい。若いの相手に、ちょっと言い過ぎた俺が悪かったよ。だから、それだけは勘弁してくれ」
「だとよ」
振り返ったガルムリードは、お前が答えろとばかりに、そう言ってこちらに返答を投げて寄越す。
「え? あ、いや。別に俺は真っ当なことを言われただけだし、全然謝らなくても大丈夫だけど」
「だとよ」
それに対して、ディラックさんは「へいへい、ありがとうございますねぇ」とだけ答え、哀愁を漂わせた背を見せて、ぶつぶつと独り言を呟きながら来た道を引き返していく。
その後ろを二人でついて歩くが、途中で思い出したかのように「おい」とガルムリードがディラックさんに声をかける。
「あ? なんだよ?」
げんなりとした様子で振り向いた彼に、ガルムリードは告げる。
「もし、こいつの本気が見てぇんなら、もっと強ぇやつを用意するんだな。ごちゃごちゃ考える余裕があるうちは、こんなもんだからよ」




