トレント
「おおぉっ!」
縦横無尽に襲い来るトレントの枝を、避け、斬り払い、受け流しながら距離を詰める。
「邪魔くせぇんだよっ!」
同時に展開していたガルムリードも、それを蹴り飛ばし、へし折りながら敵へ接近していく。
だが──
「っ!! ガルム、退けっ!」
叫ぶと共に、自身もその場から飛び退くと、直前まで俺たちの居たところから、唐突に無数の土槍が地表を突き破って出現する。
「あっぶね!」
術をギリギリで躱し、なおも追撃してくるトレントの枝を斬り飛ばし、着地を果たすと同時に再度動き出す。
「ちっ! 相変わらずクソうぜぇな、精霊術ってやつは!」
それが、先ほどから二人がかりで仕掛けているにもかかわらず、いまいち攻めあぐねている理由だ。
中級以上の魔物なら、そのどれもが持っているという固有能力。
このトレントという魔物のそれは、『精霊術』。以前に知り合ったエルフ娘たちが使っていたあれだ。
発動の気配を感じられず、俺も『危険察知』があるので何とか対応できているが、それでも避けるだけで精一杯。
それに加え、無数に襲い掛かって来る鞭のような枝は、多少斬り飛ばしたところで即座に再生するので、これを対処したところで、相手に痛手を感じさせることはできないときている。
「おい、アスマ。お前、あれ使って一気にやりきれないのかよ!?」
「あれって、どれ!?」
「生命力だかを使って強くなるやつだよ!」
たぶん、ガルムリードが言っているのは『死気招来』のことだろう。
たしかに、あれを使えばこの状況を一気に解決することも可能かもしれない。
でも、この一月ほどの間で、回復魔術と併用して瞬間的に発動させるという方法を試していたが、あれは一日を通しても一度──できるならば使いたくない、というほどには精神的にも、肉体的にも消耗が激しい。
具体的にどれほどとは言い切れないが、あの独特な気持ち悪さは言葉で説明することはできない。
生命力をすり減らすという行為に、忌避感を覚えずにはいられない。
「やれるかもしれないけど、ある程度近づいてからじゃないときついんだって! 知ってるだろ!」
俺の使える能力については仲間たちと共有しているので、当然ガルムリードもそれについては分かっているはずだろうが、具体的な手段がないと、この手を切りたくないというのが本音だ。
「分かってらぁ! そこまでの道は俺が用意してやるから、お前は後ろからついてこい!」
そう言うと、ガルムリードはこちらに手招きをしてみせ、正面から相手に向かって突っ込んでいく。




