ディラック8
──翌日。
目的地へと向かう馬車の中で、俺たちは相乗りすることになったディラックさんから、戦闘に関するアドバイスをもらったり、これまでに経験した様々なことを話してもらっていた。
「んでまぁ、その村のやつらの頼みでサラマンダーを退治することになってな。こいつがもう厄介のなんのって、武器も防具も全部溶かされちまってよ。久しぶりにまじで死ぬかと思ったぜ」
ディラックさんは笑い飛ばすように言ってみせたが、それを聴いていた他の面々は表情を引きつらせて反応に困っているようだった。
「……えっと。サラマンダーって、火竜種の? あのサラマンダー?」
「おう、そいつそいつ。火吹くのは知ってたけど、斬りつけた傷口から炎噴き出すのは知らなくてな。間一髪だったわ」
ミリオの問い掛けを肯定し、彼はこんな感じとばかりに身振り手振りで炎を再現してみせる。
「あはは。あれと一人で戦おうって考え自体がすごいけど、それにしてもよく生き延びれたね。どうやって逃げ切ったの?」
「いや、逃げてねぇよ。しっかりと倒したっつーの」
彼がそう口にした瞬間、何を言ったのか分からないとばかりに、みんなが口を揃えて「え?」と疑問の声を上げた。
「だから、サラマンダーのやつは倒したよ。何とかしてくれって頼まれたんだ、当然だろ」
「まじかよ。すげぇな、おい」
「だろ?」
当然と言ってのけたディラックさんに、ガルムリードが感心したとばかりの称賛を送ると、彼は得意気に笑みを浮かべてみせた。
「というか、話でしか聞いたことないんだけど。竜種って馬鹿みたいに強いんだよな? 一人で倒せるもんなの?」
すごいことなんだとは理解しつつも、中級で最強と言われているこの人なら、なんとなくそれぐらいはできそうだと思ったので、隣のミリオに聞いてみる。
「間違いなく無理だよ。サラマンダーには翼がないから、火竜種の中じゃ一番弱いって言われているけど、それでも討伐しようとすれば、しっかりと装備を整えた中級冒険者が最低でも十人は必要のはずさ」
「えっ、そんなに?」
中級の人は大体一人ひとりの強さがアンネローゼ並みだって話で、それが十人以上はいないと倒せないような相手を一人で討伐するって、化け物かよこの人。
「うん。それに、話を聴いた限りじゃ、ディラックさんは耐火装備を用意していたわけでもなく、普通の装備で火竜を倒したらしいし、そう考えると、彼の実力は本当に上級冒険者──いや、その中でも群を抜いているかもしれないね」
「とんでもないな、それは」
話を聴けば聴くほどに、底が知れない彼の強さに空恐ろしさを覚える。