ディラック5
『アクティブスキル《不動》発動』
直撃した拳は轟音を立ててその威力のほどを示すが、すんでのところで発動したスキルによってそれを無効化したためにダメージはなく、相手からわずかに驚いたような気配を感じる。
「誰が、油断してるって?」
「……まじか?」
赤鎧は拳の感触を確かめるように、それを開いたり握ったりしてみせ、「当たったよな?」という風に首を傾げてみせた直後、今度は脈絡もなくその場で回転し、後ろ回し蹴りを放ってきた。
だが、《行動予測》により先読みしていたそれを膝を曲げることで躱し、更に体を回転させて放ってきた追撃の剣を、後ろに跳躍することで回避する。
「おいおい、避けてんなよ! どこまで受けられるか試させろって!」
「っ!?」
攻撃を完全に受け止めたことが相手の何かに火をつけてしまったようで、そこから更に執拗なまでの連撃を見舞われた。
上段から振り下ろした剣を力任せに跳ね上げたかと思えば、そこから流れるような突きや薙ぎが繰り出され、そのうえで拳や蹴りも交えた隙のない動きに圧倒され、あっという間にジリ貧になってしまう。
「《アースグレイブ》!」
「邪魔くせぇな。《ファイアボール》!」
それを遮るようにミリオが土魔術を発動させるが、それすらも予兆を読み取って回避し、こちらへの手を緩めることなく反撃の火球を放つ赤鎧。
「くっ!」
その余波を受けてか、ミリオの苦しそうな声が聞こえるが、そちらを確認している暇もなく、止まることのない攻撃を躱し続ける。
「おらっ! 避けてばっかじゃどうにもなんねぇぞ!」
避けることに必死で、反撃すらもしてこない俺を煽るようにそんなことを言ってくる赤鎧だが、そんなことは百も承知であり、そのために今自分にできることをしている最中だ。
「なにもしねぇってんなら、もう終わらせるか?」
このやり取りに飽きたかのようにそう言って、赤鎧はそれまで見せなかった動きに加え、そこに緩急をつけることによって、慣れかけていた動作のリズムを崩され、一気に追い込まれてしまう。
「っ!」
駄目だ。まだだ、遠い。もう少し。あと少し。
「ここ、だっ!」
そして、狙っていた位置までなんとか持ちこたえ、そこから全力で飛び退く。
「そんなんで逃げられると思ってんのかよ!」
相手は当然のようにこちらへ追従してくるが、それはこちらの思惑どおりであり、誘導は完全に成功し、赤鎧が事前に設置していた仕掛けを踏み抜いた。