ディラック3
「ミー君! アンもお手伝いするー!」
アンネローゼは、そんなミリオの作業に手を貸すために、彼の傍へ駆け寄っていく。
「かっ。おい、アスマ。ちっと相手しろ。体あっためときてぇからよ」
「ん? あぁ、分かった」
その腕に自身の武具を装備しながら、ガルムリードがそう言ってきたので、了承の言葉を返す。
『じゃあ、私たちも魔力を循環させて準備しておこう』
「ええ。そうですね」
クレアとテレサは、咄嗟に魔力を引き出しやすくするために、体中へ魔力を行き渡らせ、慣らしておくようだった。
「よし。準備いいぞ」
「おう。そんなら、いくぞ!」
そうして、いい具合に慣らしを終え、それぞれの準備も終わった頃。
──それはやってきた。
「あ?」
最初、それに気づいたのはガルムリードだった。
上空からの飛来物。
それは地面に落ちると、ずっしりとした重みを感じる音を立てて突き刺さり、その威容を露にした。
『きゃっ!』
「うわっ!? え、なにこれ、剣?」
「うん。でも、一体どこから?」
いきなりの事態に俺とクレアが驚いていると、いち早く状況判断に努めようとミリオが動く。
「風を切る音は向こうからしたはずだが、誰もいねぇな」
「えっと、こういう時はどうすれば?」
「とりあえず俺の近くに居ろ。下手に動き回んのだけはやめとけ」
「は、はい!」
動揺しておろおろとしているテレサは、ガルムリードの言葉を受けて、そのすぐ傍で視線を巡らせている。
そして、みんながそれぞれに周囲へ意識を向けていた、その瞬間。
「うにゃっ!!」
アンネローゼが気合いを入れた声を上げたと同時、凄まじい金属音が鳴り響く。
「っと、やるな」
そちらへ視線を向けると、真っ赤な全身鎧を着た大柄な人物が、手にした大剣をアンネローゼと打ち合わせているのが見えた。
「けど、これじゃ軽すぎる」
だが、次の瞬間には赤鎧が大剣を振り切り、アンネローゼは「ふやぁああ!」という奇声と共に、大きく打ち飛ばされてしまった。
「テレサ、弱化!」
叫ぶと同時、ミリオは素早く弓を構えると、即座に魔術を発動させ、矢を放つ。
「《サンダーショット》!」
雷を纏った一矢は、赤鎧目掛け高速で飛んでいくが、身を捩るだけで軽々と避けられてしまった──直後。
何に当たったわけでもないのに放電現象が起こり、赤鎧の表面に雷が迸った。