魔王
「え? ミリオって冒険者だったのか」
「あれ、言ってなかったっけ? そうだよ」
へぇ、さすがはファンタジー世界。まぁ、魔物がいる世界ならそういう職業があっても当然だわな。
「まぁ僕はまだ下級なんだけどね」
「下級ってことは上に中級や上級もあるのか?」
「あるよ。上級の上にも別枠で階級があるらしいけどね。なんでも大陸間を渡っての任務を名指しで依頼されるとか」
あー、よくあるA級の上のS級みたいな感じのやつか。
パンチ一発で地面にクレーター作ったりするやつとかいそうだな。こわいわー。
「なんにせよ中級にすら上がってない僕には別世界の話だけどね。もっと戦闘経験を積んでレベルアップしないと」
「頑張るのはいいけど怪我しない程度にほどほどにな」
「あはは、了解」
「でさ、話は変わるんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけど聞いてもいいか?」
「僕に答えられることならね」
「よかった、助かるよ」
この数日のミリオたちとの会話の中から得た情報によって、ここが異世界だということはまず間違いないと確信した。
少なくとも地球には存在しないものをいくつか確認できた。
魔物や魔術、精霊やレベルの存在だ。
大陸一つを見てみても地球とはまるで異なっている。
この世界は三つの大陸によって成り立っているらしい。
正確には、今現在人の営みが確認されている陸地が三つだけということみたいだが。
一つは今俺がいるこの大陸。アイグリード大陸。
この大陸には主に人間や亜人が暮らしているらしい。
二つめはアルカディア大陸。通称・楽園。
ここには精霊や妖精などの精神生命体が暮らしているみたいだ。正直かなり興味がある。
そして三つめが、魔大陸だ。
魔大陸には魔族や鬼族が暮らしているそうだ。
魔族や鬼族といったら俺のゲーム的な知識ではだいたいが悪役の立場で登場するボスキャラのイメージなんだけど、この世界のこの二種族は人間を無差別に害したりする絶対悪ではなく、普通に友好的な種族らしい。
まぁ、種族柄なのか何事も武力で決めがちなところがある武闘派揃いらしいからあまりお近づきにはなりたくない。
それでも昔に比べると魔大陸もだいぶ平和にはなったみたいだけどな。
なんでも今、魔大陸を治めている【塵芥の魔王・ランドグリム】が無駄な争いを嫌う性格らしく、度を超えた暴力沙汰を一切禁じたためだ。
魔大陸の住民たちはそれに従って魔王の癇に障る真似だけは控えるようにしているらしい。
何故かって?
魔王が圧倒的に強いからだ。
曰く、魔王は、数万、数億からなる微小な生命体の寄せ集めのような存在で、その全てを呑み込み、喰らい、統合し、使役することにより個体としての能力が通常の生物とは比べるまでもないほどに桁外れなのだという。
普通はそれだけの情報量を一つの器に注げばあっという間に溢れだし、決壊すること間違いないだろうけど、それをやってのけているのが魔王たる所以なんだろうな。
あとなんか、数千の魔術を同時に展開してそれぞれの相乗効果を利用して最大効率で魔術を発動させる《無限煉獄》とかいう離れ技まで使えるらしい。
はっきりいって化け物だ。そりゃ怖いだろうよ。
とにかくそんなわけで今の魔大陸は一応平和らしい。
「それで? 聞きたいことって?」
「あぁ、俺も冒険者になろうと思うんだけど、資格はどこで手にはいるんだ?」
生活の基盤を整えるためには金が掛かるからな、まずは資金調達から始めようと思う。回復薬も買って返さなきゃだしな。