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数減らし

 「アンタさっきから姿見ないと思ってたらどっから出てくんのよ!」


 周りの騒音にかき消されないように、声を張り上げてセシリィがこちらに話し掛けてくる。それに倣って俺も腹の底から声を出す。


 「ごめん! 偵察を兼ねて一番奥まで行ったら、ちょっとややこしいことになって!」

 「ややこしいことって、あのオークのこと!?」

 「そう! たぶんこの騒動の元凶だ!」

 「何か仲間を滅茶苦茶にしてるみたいだけど、アンタ何やったの!?」

 「俺じゃあいつに勝てないだろうから、こっちに連れてこようとして挑発したら予想以上にぶち切れた!」

 「結果的に良い判断だけど、あんま無茶すんじゃないわよ!」

 「分かった! ありがとう!」

 「それじゃあアンタも一回こっち降りてきて! そんでできるだけゴブリンに被害を出せるようにあのオークを引き付けて!」

 「了解!」


 返事をすると同時に樹上から飛び降り、セシリィの少し後ろに着地する。


 「ミーティアはどこにいるんだ!」

 「ティアは木を挟んだ向こう側よ!」


 あっちか。なら、丁度その中間辺りに行こう。

 地面を蹴り、セシリィのもとから離れる。その際にセシリィに向かっていたゴブリンの一部が俺を追いかけてくるが、とりあえず今はそれを相手にせず大体の目的地まで疾走する。

 ある程度まで行ったところでミーティアの姿が木々の合間から見えたので、背負った槍を引き抜きその場で足を止め、踏み込むと同時にそこに居たゴブリンたちの足を払う。その一撃で先頭に居たゴブリン数体が体勢を崩し、後ろに控えていたゴブリン諸共足が止まる。

 数の暴力が脅威なのは事実だが、このゴブリンたちには高度な戦術など使えるわけもなく、本当にただその場に密集しているだけなので、今のように先頭を崩すだけで全体の足並みが乱れ、動きが止まってしまう。本来のゴブリンの気性なら味方を踏みつけにしてでも俺に襲いかかってくるのかもしれないが、中途半端な命令を与えられた挙げ句、それ以降の陣頭指揮もないまま放置されている状況がこのような結果を生んだというのは皮肉なものだろう。

 とりあえずこのゴブリンたちの足止めは済んだので、後ろから追いかけてきているゴブリンたちの対処に移る。

 あと数歩の距離まで迫ってきていたゴブリンたちとの間をこちらからも詰め寄り、あと一歩で間合いに入るというところで槍の底、石突を地面に浅く突き刺し、それを基点にして体を持ち上げ先頭のゴブリンに両足を揃えた蹴り、ドロップキックを放つ。

 蹴りを受けたゴブリンは後ろから来ていた数体を巻き込む形で後ろに吹っ飛ぶ。それを追撃するように走り、一体一体に確実に止めを刺す。喉を踏み抜き、槍で胸を串刺し、小剣で腹を裂く。

 セシリィやミーティアのように一瞬の間に数体をまとめて始末するような動きはとても真似できないが、数体同時に相手をして一体ずつ仕止めることは今の俺にもできる。

 半年前は一体ずつ戦うのが基本だったことを考えるとかなりの進歩を見せているんじゃないかと思う。だが、依然として発展途上であることは否めないので、調子に乗るようなことはしない。それで痛い目を見るのは分かりきっているからな。

 そして、ゴブリン数体の始末を済ませたので元の位置に戻ろうとした時、視界の隅に発光する物体を捉えたので、跳躍すると同時に視線を向けると案の定俺を狙って火球が飛んできていた。

 先程から俺を見失っていたオークが俺の姿を再び捉えたのだろう。火球は寸前まで俺の居た場所に着弾。その場にあったゴブリンたちの死体が火球の衝撃で弾け飛び、熱で燃やされ火を上げている。

 オークに見つかった以上ゴブリンの相手はもうしていられない。だが、これまで何度も火球を目にしたことであることに気づいた。あの火球は何かにぶつかり衝撃を受けることで爆発し、周囲に熱と炎を撒き散らす特性がある。それを利用させてもらう。

 自分の周りにいるゴブリンを蹴散らしながら歩を進めているオークが魔剣を振りかざすと、刀身が淡く赤色の光を放ち、それが瞬く間に収束し高速の火球が撃ち放たれる。

 火球の一発一発がやけに早く撃ち出されてくると思っていたら、剣を振りかざすだけであんな手軽に生成されていたのか。それは早いわけだ。なんて武器を使ってきやがるんだよ。

 でも、俺の読みが正しければこれでその火球をおとすことができるはずだ。

 火球が射出された時、俺は腰に下げている革袋から石を取り出していた。そして、火球目掛けてそれを放つ。

 力を込めて放った石が、投擲スキルと投射スキルの補正を受け火球目掛けて一直線に速く、鋭く、暗闇を裂くように走る。

 高速で飛来する火球と、高速で宙を翔ける投石がぶつかり合った瞬間。爆発音と共に爆ぜ、爆発の衝撃と炎による熱がその場に居たゴブリンを襲い次々にその命を奪い取っていった。

 相変わらずの凄まじい威力に顔をしかめるが、どうやら読みは当たったようだ。これなら距離を詰められるまでの間、戦わずして雑兵の数を減らすことができる。

 だが、問題はそのあとに待っているボス戦だ。果たして俺たちはあのオークに勝てるのだろうか…。

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