下水道15
「応用? というか、何をどうやったらこんな状況を作れるんだよ」
『……うん……えっとね』
クレア曰く。
最初の位置取りが決まった時点で、俺たちとは反対の──この場所へと移動する際、道中にあった横穴すべてに魔物の死体の一部を設置しておき、ある程度魔物たちの行動を制御していたらしい。
そうして魔物たちは、俺とガルムリードの起こした戦闘音によって遠ざかるように移動した結果、この区画の一つ手前に集められた。
その後にクレアの《フラッシュ》によって視覚を潰され、混乱しているうえ過敏になった聴覚で捉えた俺たちの足音から逃げたことにより、この場所へとたどり着き、待ち受けていたアンネローゼの餌食になったというわけだ。
魔物の中に指揮を執るような個体がいればまた話も違ったのだろうが、本能で動く生物にとっては、一度できた流れを変えてまで別の行動を起こすようなことはできずに、最後尾にいた魔物以外はこうして討伐されてしまうことになったんだろう。
「はぁ~。なんていうか、すごいな。よくもまぁ、あの短い時間でこれだけ考えつくもんだ」
『……あはは……でも失敗する可能性も高かったから……成功したのは運だけどね』
「いや、だとしてもすごいよ。俺だったら時間を掛けてもこんなの思いつかないだろうし」
『……うーん……そんなことないと思うけど』
クレアは謙虚だからこういう風に言うけど、実際ある程度状況を把握してもその全容は掴めなかったし、正直俺よりは数段頭がいいんだろうなと思う。
「そんなことあるって。というか、前から言ってるけど、クレアはもう少しその辺り自信を持ってもいいと思うぞ」
『……そうかな?』
「うん」
『……そっか……うん……分かった』
まだどこか納得しかねているような返事ではあったけど、自信が持てないというのなら、何度でもこうして俺の感じたことを直接伝えよう。
そうすることで、クレアが少しでも自身の優れている部分を自覚して、自分を肯定的に捉えて、強く生きていけるように。
「ちっ。俺の負けだ、くそが」
「いぇーい! やったぜー!」
と、そんな話をしている内に、向こうではいつの間にか決着がついていたようで、そうした会話が聞こえてきた。
なので、クレアと一緒に彼らの下へと歩み寄っていくと、どことなくすっきりとした表情で、ガルムリードが強く鼻を鳴らしてみせる。
「じゃあじゃあ。アンが勝ったから、これからはガルルンのことガルルンって怒らないんだよね!」
「……あぁ。負けた以上、文句は言わねぇよ」
「やたー!」
よほど嬉しかったのか、アンネローゼはその場でぴょんぴょんと跳ねて喜びを表現してみせる。
ここまで嬉しそうなところをみせられると、なんとなくこっちまで楽しい気分になってくるから不思議だ。
「ははっ。あ、そういえば、ガルムさ。今回は負けちゃったわけだけど。なんか不満とかあるんなら、一応言っておいたらどうだ? せっかくだしさ」
悪い感情を持ったままでいると、後々にそれが響いてくるかもしれないし、解消できるのであれば、ここで解消しておいた方がいいだろうからな。
「あ? 不満なんざなんもねぇよ」
「え? いや、でもなんか喧嘩っぽいことになってただろ。さっき」
「なにを勘違いしてんのか知らねぇが、あんなもん喧嘩でもなんでもねぇっての。俺ぁ、こいつが勝手に俺の分の獲物まで横取りしやがったから、文句を言ってやったまでだ」
……あれ?
「それに、こうやってこいつの獲物を奪って仕返しをしてやったからな。不満があるわけもねぇだろうよ」
「……じゃあ、この勝負って必要なかった?」
「あ? なんでだよ。こんだけ暴れ回れてすっきりしただろうが。こうするために競い合う形に持っていったんじゃねぇのかよ」
「……あーいや。まぁそう、なのかな?」
思ってもみなかった返しをされたことに戸惑い、しどろもどろになってしまったため、変な目で見られてしまったが、「だったらいいじゃねぇか」という、ガルムリードの言葉により、肯定されてしまった。
……実際はそこまで深く考えてなんていなかったのに。
「んで、お前──クレアは、俺になにを要求すんだ?」
『……えっと……ちゃんと名前で呼んでって言おうと思ってたから……そう呼んでくれるなら私はそれでいいよ』
「かっ。そうかよ」
と、先程の作戦を通して、彼の中でクレアへの評価に変化があったようで、その呼び名がちび助から変わっていた。
それ自体はいいことだと思うけど、どうしてガルムリードはクレアにも要求を聞いたんだろう?
「そんなら、次はお前の番だアスマ。こいつらの要求聞いてやれ」
「え? いや、なんで俺も?」
「てめぇが言ったんだろうが。勝った方が相手に一つ要求できるってよ」
「……あー」
そういえば、そうか。
二人組で勝負をしたんだから、この場合勝ったのはクレアとアンネローゼで、負けたのは俺とガルムリードだ。
なら、条件的に二人の要求を俺もの飲まないといけないってことになるわけだ。
「そうだな。うん。えっと、なんかある?」
二人に向けてそう尋ねると、「はーい!」とアンネローゼが手を上げたので、「どうぞ」と促してみる。
「アン。アー君と模擬戦したい! ニアちゃんとやった時みたいに、本気で!」
「えぇ? んー。あの人ほど楽しませてあげられないだろうけど、それでもいいならいいよ」
「うん! ありがとうアー君!」
まぁ、たしかにアンネローゼとはそろそろ一度本気で戦ってみたいと思ってたところだし、ある意味これは渡りに船って言えるのかもしれない。
……なんとなく勝敗は見えてるような気もするけど。
「それじゃ、クレアもなにかあればどうぞ」
そう勧めると、クレアは少し考えるような素振りをみせた後、そわそわとした様子でこちらを見上げてくる。
『……お願いはあるけど……言うのは後で……二人の時にでもいい?』
「ん? あぁ、全然それでいいよ。じゃあ、また後でな」
『……うん!』
そうして、個人的に様々な学びと経験を得た今回の任務は終わり、俺たちは互いについて、以前よりも少しよく知ることができたような気がする。
……ただ、後片付けが思っていた以上に大変で、結局清掃員の人たちの手を煩わせてしまったのは非常に申し訳なく思った。




