下水道9
「で、本当に選んだの俺でよかったのか?」
「その話はさっきしただろぉが。なんか不満でもあんのかよ」
同じようなことを繰り返し尋ねてくる俺に、いぶかしげな視線を向けてくるガルムリード。
「いや、不満とかじゃないけど。単純にアンちゃんとクレアを組ませたのは、不味かったんじゃないかなってさ」
「あ? どぉいう意味だよ」
さすがにそれだけでは意味が通じなかったようなので、頭の中で情報を整理しながら言葉を引き出していく。
「えっと、ガルムが俺を選んだ理由って、たぶん俺も策敵ができるからだろ? 向こうにその優位性を渡したくなかったっていうか」
「ま、そういうこったな。あいつらよりも先に、策敵した敵を片っ端からぶっ潰す。それが一番の勝ち筋ってやつだろぉよ」
「たしかに、普通に考えたらそうだな」
実際、俺も事前情報なしでガルムリードの立場だったら同じ選択をしてただろうし。
「でも、相手がクレアの場合に限っては、その優位性は簡単に覆してくる可能性があるんだよ」
「んだと? てめぇが惚れてる女だから贔屓目に見てるだけなんじゃねぇのか」
「ははっ、まぁ多少はそういうとこもあるかもな。ただ、今までの実績からみも侮れない部分があるのは確実だ。あんまり舐めて掛かると痛い目をみることになるぞ」
今はまだ経験不足なところはあるけど、それこそミリオと遜色ないほどに色々と頭の回る子だ。
今回も、勝つための考えをすでに持っていると思っていた方がいいだろう。
「かっ。おもしれぇ。やれるもんならやってもらおうじゃねぇか。あのちび助にそれができるならよ」
そう言って、ガルムリードは獰猛な笑みを浮かべてみせる。
だが、その時の物言いに一つ気に掛かる部分があり、ちょうどこの場には俺たち二人しかいないので、少しそれを訂正させてもらうことにする。
「あー。なぁ、ガルム。その呼び方やめてやってくれないか」
「あ? ちび助のことか?」
「うん、それ」
「なんでだよ。ちび助はちび助だろぉが」
なにが悪いんだとばかりにそう言い返してくるガルムリード。
そんな彼に対して、どう言えば気持ちが伝わるのかを少し考えてから口を開く。
「いや、本人はなにも言ってないけど、歳のわりに背が低いこと気にしてるっぽいから、あんまりそういう風に呼ばれると傷つくかもだしさ」
「かっ。くっだらねぇ。んなもんはてめぇがどうこう言うことじゃねぇだろうが。過保護なのも大概にしやがれ」
……それを言われるとたしかに心配のしすぎなのかもしれないけど、クレアが嫌な気持ちになるのを見過ごし続けるのは嫌だし、パーティー内の空気が悪くなったりするのも嫌だし。
これって考えすぎなのかな? どうなんだろ、分からん。
「ただまぁ、この勝負であのちび助が俺を認めさせるような活躍をすれば、そん時は考えてやるよ」
付け加えるようにそう言って、ガルムリードはこちらを置き去りにするように速度を上げてみせた。
やっぱ、なんだかんだいいやつだよな、こいつ。
そう思いながら、置いていかれないようにこちらも速度を上げ、その後ろを追い掛けていく。




