下水道3
「おい。最初に仕掛けたとこ、かなり集まってんぞ。そろそろいいんじゃねぇのか?」
「そうだね。うん、頃合いかな。それじゃあ、テレサ。準備を始めておいてもらえる?」
「はい、了解しました」
ガルムリードが音による索敵を済ませ、端的にその状況を伝えると、ミリオがテレサさんへと一つの指示を出し、彼女はそれに応じて魔力を高め始める。
それと同時に、足音を殺すようにして進んできた道を戻り、仕掛けを施しておいた区画の手前で足を止めた。
「ガルム、様子はどう?」
「こっちに気づいて動きを止めたやつが何匹かはいるが、問題はねぇよ。やんなら今だぜ」
「よし。じゃあ、ガルムとアスマを先頭に、テレサはその後ろから魔術で敵を弱化。それが発動次第、僕たちも前に出るから、それまでアスマはテレサの護衛をお願い」
ミリオの作戦に全員が頷いて返し、俺とガルムにテレサさんの三人で前に出る。
「さ、やろうか」
その言葉に背を押されるように俺たちは通路から飛び出し、直後に背後から魔術が放たれる。
「《グランフィアー》!」
テレサさんが発動させたのは、精神系の中位魔術。
それは下位魔術の《フィアー》と比べ、効果とその範囲が拡大したもので、この区画内にいるすべての敵に影響を及ぼし、身体の硬直や、動きの鈍化といった弱体効果を付与していく。
そうして、その場に仕掛けられていた瀕死のスパイダーに群がっていたスカベンジャーたちは、まんまと弱化されてしまい、早速とばかりにガルムリードがそこへ躍り掛かった。
「っしゃあ!」
集団のど真ん中に振り下ろした拳が、数体のスカベンジャーをまとめて叩き潰し、衝撃で血肉が飛び散る。
同時に、余波を受けた個体が周囲に放り出される形で散り散りになり、それぞれが慌てたようにその場から逃げ出そうと駆け出す。
「アスマ、交代。前に出て」
「おう、了解!」
その言葉を受け、テレサさんの護衛をミリオに代わると、手近にいた一体へ飛び掛かり、正面から剣を斬り上げて両断する。
やはり、魔術の影響でかなり行動力が弱化しているのか、その動きからは大した敏捷性が感じられず、簡単に一体目の駆除が完了した。
「やっふー!」
軽快な声と共に、凄まじい勢いで駆け出してきたのはアンネローゼだ。
彼女は標的を定めたのか、あっという間に俺を追い越すと、三体のスカベンジャーの下へ一気に詰め寄り、靴底を滑らせるようにして速度を落としながらも、速攻で目の前の一体を槍で刺し貫き、踊るような身のこなしで体を回転させると、二体、三体と、一瞬のうちに片をつけてしまった。
「……えぇ」
あまりの早業にどこか理不尽なものを感じながらも、わずかに遅れてやってきたクレアに微笑ましいものを感じ、俺も負けていられないとばかりに次の相手に目標を定め、走り出した。




