派遣
──二日後。
街の地下。薄暗く、妙に生暖かな湿気が漂う下水道にて。
俺たちは、ある討伐任務をこなしていた。のだが──。
「そっち行ったぞ、ガルム!」
「ちっ! ちょこまかと、うっとぉしぃんだよ!」
俺の剣を躱わし、足下をすり抜けていった『それ』が向かったことを伝えると、ガルムリードはイライラとした様子でそれに目掛けて拳を振り下ろす。
「おらっ!」
だが、『それ』はいとも容易く拳撃を躱すと、すれ違いざまにその鋭い前歯で彼の皮膚を噛み切っていく。
「くそ、がっ!!」
傷は小さいためにそれほど大した出血もなく、動きにも支障はないのか、素早い動作で反転してみせたガルムリードは、鬱憤を晴らすかのように大きく息を吸い込み『それ』に向けて咆哮を放つ。
しかし、本能的に危険を察知したのか、『それ』は俊敏な身のこなしで壁の隙間に潜り込み、その猛威を回避していく。
「だあぁぁっ、くそっ! なんなんだよあいつは! すばしっこくて当たりゃしねぇ!」
「あぁ、ちょっと舐めてたな。まさか、『ネズミ』がこんなに厄介だとは思ってなかったよ」
あまりの結果にから笑いしながらも、それが消え去っていった穴を眺め、一つため息をつく。
──話は昨日の朝に戻る。
「いやぁ、昨日はびっくりしたよな。まさかテレサさんがうちに加わることになるなんてさ」
朝食の席でその話題を振ると、もそもそとパンを食べていたクレアが同意とばかりに頷いてみせ、「たしかにね」とミリオも笑顔で答えてくれる。
加入理由はいくつか言っていたが、要約するとギルドの規模が大きくなってきたことにより、職員に求められる実力的な問題解決能力や実地経験やその知識の重要度が増してきたため、試験的にテレサさんを俺たちのパーティーに加入させてその向上を図るというものだった。
「でも、ある意味必然だったと思うよ。僕らのところに彼女が遣わされてきたのは」
「え? なんで?」
「うん。この前アスマが言ってたでしょ。ギルドマスターに魔族との関与を疑われてるって」
「あぁ、うん。言った」
一部スキルが発揮する効果。それが特異個体に類する魔物と酷似していることから、俺個人の意志はともかく、グランツさんには魔族との繋がりがあるんじゃないかという疑いを持たれている。
「それに関しての監視や報告、それを目的として派遣されてきたんだろうね。もちろん、昨日彼らが言っていたこともまったくの嘘だってわけじゃないんだろうけど」
「あ、あー。なるほど」
その考えはなかったな。
なんというか、そういう監視役とかって、気づかれないように影からこっちを見張ってたりするイメージだったから、そういう風にはまったく感じてなかった。
……まぁ、疑わしいやつには必要だよな。それも。




