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強敵

 中途半端なところに降りたらゴブリンたちに見つかる可能性があるので、ここは敢えて一番奥まで進んでゴブリンたちの背後に降りることにしよう。こいつらは思考が単純で、セシリィたちに注意を向けている今、よほど大きな物音でも立てない限りは後ろを振り返るようなこともないだろ。まぁ、もちろん行動には細心の注意を払い、警戒を怠ることは絶対にないがな。

 木を飛び伝い、先を目指す。何かさっきから当たり前のように木の間を飛んで移動してるけど、何で俺こんな山猿みたいなことしてんだろ。一応文明人のはずなんだけど、どんどん退化してるような気がするんだが…。まぁいいけど。

 それにしてもこんな数のゴブリンどこから湧いて出てきたんだか。住み処がこの辺りにあるのかもしれないが、だとしたらこいつらは自分の家を燃やしていることになるわけなんだが、正気なのか? 本当何考えてんだろ。

 そして、数分の後。ゴブリンたちの最後尾に到達した。そこから更に少し進んだところで、音を立てないように気をつけてゆっくりと木から降りる。

 久しぶりに踏み締めた土の感触が心地良い。何というか安心感がある。あまり意識はしてなかったけど、いちいちバランスを合わせなくても立ってられるというのは凄く楽だ。やっぱり人間は地上で過ごすのが一番合っているんだろうな。

 とりあえず手頃な石を拾っていこう。術師がどれだけいるか分からないし、さっきより多目に取っておいて早く戻ろう。

 それから幾つかの石を革袋に仕舞い、もう少し拾ったら木の上に戻ろうとしたその時、急に辺りが明るくなり、何だと思いうつむけていた顔を上げると、視界の先から火球が飛んでくるのが見え、それと同時に危険察知が鳴り響いた。

 咄嗟に地面に伏せることでそれをかわしたが、同じ方向から続けて飛んでくる火球が見えたので、両手足で地面を押し退けるように力を込めて真横に跳ぶ。その瞬間にまた危険察知が鳴り響く。

 木の幹を盾にすることで射線からは逃れたが、相手にはこちらの位置が把握されているだろう。

 こっちは相手の姿すら確認できていないというのに。というか、今回に限っては油断なんて全くしていなかったのに完全に不意をつかれた。たぶん相手はゴブリン術師なんだろうが群れの外にもいやがったのか。

 というか今初めて気づいた事実があったんだが、もしかして危険察知の知覚範囲ってあまり広くないのか? 今までは近接戦でしか発動したことがなかったから知らなかったけど、今の火球のおかげで俺を中心に数メートル程度の範囲でしか感知できないんじゃないか?

 このスキルにはかなり助けられてきたけど、そんなところに欠点があったなんて知らなかった。近接戦では今まで通り問題ないが遠距離からの攻撃、それも高速で迫ってくるものに対しては無防備なのかもしれない。いずれ対策を考えないといけないな。

 それよりも今はこの状況をどうにかすることが先決だ。投擲を一撃当てれば倒すことはできると思うが、そのためにはまず相手を見つけなければならない。

 そんなことを考えていると、隠れていた木の裏側に火球が直撃したのか、熱と衝撃により幹が爆ぜ、こちら側まで熱気が伝わってきた。

 この木ごと俺を焼き殺すつもりなのだろうか。

 …仕方ない、このまま留まっていても事態が好転することはなさそうだ。なら、リスクを覚悟で飛び出すしかないか。

 あの火球は、当たれば重度の火傷を負わされる可能性がある以上絶対に当たるわけにはいかない。被害は増えるかもしれないが、木の幹の間をすり抜けながら全力で相手までの距離を駆け抜けるしかない。相手にこちらの存在がばれている以上出し惜しみはなしで行く!


 「おぉぉぉっっ!!」


 先程までの隠密行動中は控えていた戦士の咆哮に加え、疾駆、闘気を発動。革袋から一つ石を取り出しそれを握り締め、木の陰から飛び出すと、火球の飛んできた方向に向け一気に全速力で駆け出す。

 その直後、視線の先の暗闇から放たれた火球をかわすために、速度はそのままに木々の間に身を滑り込ませ、木の幹に体を掠めながらも前進し続ける。

 二度、三度、同じ要領でかわし続けたが、距離が詰まるにつれどんどんと火球が放たれてからこちらに届く時間が縮まり、暗闇に光が灯った瞬間に真横に跳ぶしかかわすすべがなくなってきたが、ついにそのシルエットを視界に捉え、その影に向けて全力の一投を放つ。

 ろくに狙いもつけていないが、魔術を放つ集中力を削ぐための牽制になればそれで十分だ。

 そう思い、小剣に手を掛けながら最後の距離を詰めようとした時、投石が何か硬質なものに当たったのか甲高い音がそこから聞こえ、ふと、違和感を覚え足を止める。 

 硬質なもの? 鎧? ゴブリンにそんな装備を用意できるのか、という疑問と、もしそんな存在がいるのならそれはより上位の個体なのではないのか? という考えを覚え、無理に突撃するのを止め、その場で武器を構えて相手の出方を窺う。

 すると、その存在は暗がりからその姿を現した。

 それは、ゴブリンではなかった。俺よりも遥かに大きい体躯に、人の身の丈ほどはありそうな分厚い大剣を携え、赤褐色の肌を持ったオークだった。

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