戦姫として4
ミリオはアンネローゼの肩に手を置いて、申し訳なさそうに言ってみせる。
「えぇっ、なんで~!?」
想像していたものとは真逆の反応が返ってきたことに、アンネローゼは驚いたような、落胆したような、悲愴感に満ちた声を上げ、悲しそうな顔をしてミリオの腕を両手で握り締めた。
「……アンのこと、嫌いになった?」
「そんなわけないでしょ。えっとね。彼女の話を聞いて分かったんだ。僕がアンについて行ったとしても、一緒にいられることはないってことがね」
「どうして?」
確信めいた響きを含ませてそう言ったミリオに、アンネローゼはなぜそうなるのか分からないとばかりに疑問を呈する。
「情けない話ではあるんだけど、僕の力不足が一番の理由かな」
苦笑と共にそれを口にしたミリオは本当にそれを恥じているようで、その口調はいつもより沈んでいるように感じられた。
「さっきニーアさんが言ってたよね。向こうへ行ったら適正検査──つまり、僕がどの程度の力を持っていて、なにができるのかを調べるって。その結果によって配属される部隊が決まるらしいけど、そこで確実に僕とアンは別の部隊に分けられちゃうんだよ」
「そうなの?」
「うん。ですよね?」
知り得た情報を元に組み立てた自身の推測を話してみせたミリオは、ニーアさんへとその確認を取るように声を掛ける。
「あぁ、そうだな。直接君の力を確めた私の所感では、君たちが同じ部隊に配属されることはまずないだろう。先ほどの戦いで力を隠していたというのならば話は変わってくるが、それはないのだろう?」
「えぇ。僕は全力で戦いましたよ」
「ならば、間違いなく同配属はあり得ないだろうな」
ニーアさんからそう言われてしまっては、もうその事実を否定することはできず、アンネローゼは再び顔を伏せるようにしてうなだれてしまった。
「それにアンも知ってる通り、僕にはやらなくちゃいけないことがあるから。ここで中途半端なことをすれば、それこそ手伝ってくれるアスマやガルムに申し訳が立たないしね」
だから自分は一緒には行けないと、ミリオははっきりとアンネローゼにそう言ってみせた。
薄情にも聞こえるその言い分だが、ミリオにとってはそれこそがなによりも大事なことであり、それは、これまでの彼の戦いのすべてがそこへ集約しているといっても過言ではないぐらいだろう。
だが、それを聞いたアンネローゼはさらに落ち込んだように首を前に倒してみせ、そのまま倒れ込んでしまいそうなほど、その立ち姿からは力が感じられない。
「だから、それが終わるまで少しの間向こうで待っててくれる?」
「……え?」
ミリオは微笑み掛けるようにしてそう言って、その言葉の意味を確めるようにアンネローゼはうつむいていた顔を上げてみせる。
「僕はアンみたいに強くはないから、きっとそこまで行くのには時間が掛かっちゃうと思うけど、どんな方法を使っても辿り着いてみせるから、だから、先に向こうで待っててよ」
「……ミー君、きてくれるの?」
「うん。君が望むならどこへだって行くよ」
にこやかな笑みを浮かべあっさりとそう言ってみせたミリオは、アンネローゼの頭に手を乗せると真っ直ぐにその視線を彼女へと向ける。
「アンが僕のことを必要としてくれてるように、僕もアンのことを大切に思ってるから。あの時、君が僕の力になってくれたように、今度は僕が君の支えになれるようになんとか頑張ってみせるから、それまでアンも頑張れる?」
まるで、子供に言い聞かせるように、ゆっくりと発せられたその言葉は、アンネローゼの心にしっかりと届いたようで、彼女は表情を一転させ満面の笑みを浮かべると、「うん!」と元気な声で返事をしてみせた。




