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戦姫として

 その驚きを抱えたままミリオへと顔を向け、言外に知っていたかと目で訴えかけてみれば、彼もそのことを聞いていなかったようで「アン?」と、目の前の少女に確認を取ろうとしているところだった。

 それに対して、アンネローゼは気持ちのいい笑顔を浮かべると、「うん!」と元気な返事をしてみせる。


「なんかね、ニアちゃんたちが王都に連れていってくれるんだって。それでね、みんなでいっぱい鍛えてくれるんだって。楽しみだよねー!」


 たぶん、ニーアさんがその話をアンネローゼにしたのは、昨日俺がギルドを出ていった後のことなんだろう。

 俺も、ミリオもそんな話は初耳で、それを話しているアンネローゼはその意味を理解していないのか、とても楽しそうにそれを語っている。


「それにね、王都ってここよりもすっごい人が多いんでしょ? だったら、強い人もいっぱいいるんだよね? すごいよね~、毎日いろんな人と模擬戦できるんだもん。ミー君と、アー君と、クーちゃんと、ガルルンと、みんなで一緒に!」


 未来の出来事に思いを馳せ、興奮したように握った両手を上下に振ってみせるアンネローゼは、やはり正確にその意味を理解していないようで、王都へは『みんなで一緒に』行けるものだと思い込んでいるようだった。

 が、その間違いを正すように、ニーアさんから「いや、それは違うぞ」と訂正の言が入る。


「きちんと理解していないようなので言っておくが、王都へ行くのはアンネローゼ、君だけだ」

「…………え?」


 その言葉を受け、すぐにはそれを飲み込むことができなかったのか、少しの間を置いて、アンネローゼは笑顔のまま疑問符を浮かべるように首を傾げ、ニーアさんへと視線を向ける。


「みんな一緒じゃないの?」

「あぁ、違う。行くのは君だけだ」

「……じゃあ。みんなが一緒じゃないなら、アンも行かない」


 アンネローゼは先程までとは打って変わり、意気消沈したようにそう返すが、ニーアさんは「駄目だ」と、即座にそれを切り捨てる。


「これは、戦姫として君に課せられている使命であり、絶対の命令だ。それを反故にすることは許されない」


 ニーアさんの発したその言葉には先程までの柔らかさはなく、硬質な響きを持ったそれにはまるで温かさが感じられず、むしろ体感的に周囲の温度まで下がってしまったかのような冷たさがあった。


「でも、アンは戦姫じゃないもん」

「あぁ。今はまだな。だが、君はそうなるべくして今まで育てられてきたはずだ。日々の食事に、身につけている衣服や装備。生活に必要なものや、欲しいものはすべて与えられてきただろう? それが何故か少しでも考えたことはあるか?」


 その質問にアンネローゼは答えることができない。

 そもそも、あまり物事を難しく考えることのできない彼女は、それに答える術を持ち合わせていないからだろうが、口をつぐみ、視線をさ迷わせている。

 だが、誰もそこに助け舟を出すことはできない。

 これは彼女たち──戦姫の話し合いであり、それ以外の者たちが口を挟むことは許されていない。

 それに、ニーアさんから感じられる重圧が精神的に作用し、俺たちが余計なことを言わないように口を閉ざさせている。


「答えられないか? ならば教えてやろう。それは君が戦姫として必要なもの──《ギフト》をその身に有していたからだ。故に、国からの物的支援を受けて成長し、その恩恵を享受してきた君に拒否権はない。この使命から、逃れられるとは思わないことだ」

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