挑戦20
「ほう。それはまた大きく出たものだな。だが面白い。ならば、その言葉がハッタリではないことを示してみせろ」
戦姫はその切っ先を突きつけるように剣を肩上で構えてみせ、足を大きく開いて膝を曲げ、低い姿勢で地を強く踏み締める。
いつでも飛び出せるような形で動きを止めた戦姫からは、離れていても分かるほどの圧力が発されていて、ただ視線を向けているだけでも口の中が渇き、冷や汗が流れ、肌がヒリつくような感覚に陥る。
だが、それを前にしたアンネローゼからそのような感情は窺えず、むしろより一層集中力を高めているようにすら見えた。
両者はその状態のまま時が止まってしまったかのように静止し、互いに動き出す瞬間を推し量っているようだった。
──と、その時。
街の中央から正午を報せる鐘の音が、不意に鳴り響く。
「っっ!!」
それはどちらが発した音だったのか。
極限まで張り詰めていた糸が切れてしまったかのような、大量の水を塞き止めていた堤防が決壊してしまったかのような……そんな裂帛の気合いが放たれ、衝撃を伴う強烈な轟音と共に戦姫の姿がその場から消え去る。
──そして、直後に鳴り響く快音。
それが耳に届いた時にはすべてが終わっていたようで、視線の先には互いの立ち位置が入れ替わり、剣を振り下ろした戦姫と、背中から地面に倒れ込むアンネローゼの姿があった。
剣を引き戻した戦姫は、踵を返すとアンネローゼの下へ歩み寄り、剣の腹で彼女の頭を軽く叩いてみせ──
「私の勝ちだな。アンネローゼ」
倒れたままのアンネローゼに向け勝利を宣言する。
両者が交錯した瞬間になにが起きたのかは相変わらず分からなかったが、結局のところ、勝負は戦姫の勝ちで終わったようだ。
直前にあれだけ自信ありげに「勝っちゃう」と言っていただけに、もしかしたらという気持ちがあったけど、やっぱり彼女に勝利するのはそう容易なことじゃなかったということだろう。
そう思っていると、倒れていたアンネローゼが「よっ」という掛け声と共に上体を起こしてみせ、にへらっとした笑みを浮かべた。
「うん。でも、さっきの一回はアンの勝ちだよ!」
さっきの一回?
それがどういう意味なのかは、なにも見えていなかった俺には判断がつかないが、それを受けた戦姫も「あぁ、そうだな」と、肯定してみせた。
「それほど良い当たりではなかったとはいえ、まさか連撃をすべて防いだうえで反撃まで繰り出してくるとは、さすがに予想外だったよ。うん、たしかにその点で言えば君の勝ちだ。アンネローゼ」
「う~~っ、しゃーっ!!」
という奇声を上げ、おかしなテンションになったアンネローゼは再度後ろに倒れ込むと、足を上下にバタバタと振って押さえきれない喜びを表現しているようだった。




