挑戦19
アンネローゼの変化をそのように考察しながら、この後の展開がどうなるのかに注目していると、彼女の準備が済むまで待っていたのか、戦姫が進めていた歩を徐々に大きくさせ、それが駆け足へと変わる。
そして、その速度が知覚できる限界を超えた時、俺の視界から戦姫の姿が掻き消えた。
その直後、金属の擦れるような音が耳に届く。
急いで視線をそちらへ飛ばすと、連続して様々な金属音が鳴り響き、同時に火花が飛び散る様を目撃する。
憶測でしかないが、それはアンネローゼが戦姫の剣を受け流し、いなした結果に発生したものだと思う。
目で追うことすらも厳しいあの剣をどのようにして捌いているのか、それは分からないが、この連続した音が続いているということこそ、アンネローゼがまだ敗北していないという証拠に他ならない。
「うにゃあーっ!?」
──だがそれも長くは続かなかった。
それまでとは異なる激しく響いた快音と共に、真後ろへ吹き飛ばされるアンネローの姿を目にする。
姿勢は崩れてなく、しっかりと両足で地面を捉えてはいるが、この短い時間でどれほど熾烈な攻防があったのか、彼女の腕や肩、頬には剣で斬りつけられたような痕があり、見て分かるほどに消耗してしまっている。
「いったた~」
傷が痛むのか顔をわずかに歪め、多少息も乱れているが、それでも戦意はまるで失ってはいないようで、視線は常に戦姫へと向けられ、先程とは少し違うが構えも解かれてはいない。
「ふむ。昨日に比べて随分と上手く捌くようになった。さすがに成長が早いな、アンネローゼ」
「えっへへぇ! 褒めてくれてありがとう、ニアちゃん。さっきから何回もじーっと見て、やっとできるようになってきたよー。アー君のおかげだね!」
照れ臭そうに笑い、それを俺のおかげだと答えるアンネローゼだが、普通は何度か見ただけで対応できるほどあの剣は甘くなく、それを成し遂げてみせる彼女の才能には本当に驚かされる。
「なるほど。先程のあれにはそういう意図も含まれていたのか。ふっ、本当によく考えるものだ」
その言葉を聞いて、たしかにミリオならそこまで計算に入れて考えていてもおかしくはないと気づかされ、少し笑ってしまう。
本人がそのことについてなにと言っていなかったのは、それがあまりにも不確定な可能性でしかなかったからなんだろう。
でも、そんなわずかな可能性すらも取り入れて作戦を立てていたなんて、思考面においてはあいつも大概異常だよな。
「だが、防いでいるだけではいつまで経っても私に勝つことはできないぞ? それに、君の体力もそれほど持ちはしないだろうしな」
戦姫の指摘はもっともなもので、このままの状況が続けば、体力的に限界が近づいているアンネローゼが先に倒れて終わるだろう。
それは、両者の力の差を考えれば当たり前の展開ではあるんだろうが、それを聞いたアンネローゼの表情は、それを否定するような力の籠った笑みだった。
「うん。もうフラフラだからあとちょっとしかニアちゃんとは戦えないけど、でも大丈夫だよ」
そう言ってアンネローゼは更に笑みを深め──
「次はアンが勝っちゃうから」
あっさりと、自信満々にそう言ってみせた。




