挑戦10
「っ!?」
やっばい!
あまりの状況の悪さに身震いがすると同時、戦姫から発せられる圧力のようなもので全身が硬直したように動かなくなる。
俺たちを追い詰めると宣言した戦姫は、あの剣を間違いなく俺たちに振り下ろすだろう。
だが、手足は動かず、その凶刃から逃げ出すことはできない。
いや、俺一人だけなら《不動》を使えば一撃だけなら耐えられる。
でも、それだとアンネローゼが……それに、先程のように追撃を放たれてしまえばそれも無意味に終わる。これじゃ駄目だ。
自身に扱うことのできる能力を頭の中に羅列していくが、そのどれもがこの状況を打破するためには至らず、自力での脱出は完全に不可能だと悟る。
だから、最後の可能性として俺は、我らがリーダーにすべてを託すことにした。
『ミリオーッ!!』
思念でそう叫んだ瞬間。
戦姫の剣が閃くような速度で走り、無慈悲な刃が俺たちの身を──
「《アースピット》!」
斬り裂こうとしたそのタイミングで、ミリオは俺の真下に穴を作り出し、それにより俺たちは穴の中に身を沈めることによって、ギリギリでその一撃を回避する。
目の前で刃が通りすぎるのを無抵抗で眺めていた身としては、肝が冷え、本気で死ぬかもしれないという予感すら覚えていたほどだったが、やっぱりミリオは頼りになる。
と、九死に一生を得たことから、肺に溜まっていた息を吐き出しわずかに気を緩めたところで、穴の向こうから高速で伸ばされた腕に頭を鷲掴みにされ、凄まじい力で体が引き上げられる。
「えっ?」
呆けるような声を上げ、その腕の延長線に視線を向けてみれば、そこでは戦姫が剣を肩越しに構え袈裟斬りを放とうとしていた。
「終わりだ」
あまりの急展開に思考が追いつかない中、戦姫から呆気のない終了宣言をされ、そして──
『……アスマ君!!』
頭の中にクレアの声が響き、はっとすると同時に現在の状況を見たままで理解し、即座に《不動》を発動。
間髪を入れずに放たれた斬撃が俺の肩口に飛来するも、逆に剣が弾かれ衝撃で腕ごと後方に流れる。
それを視界に捉えながら、しかし、頭の中は別の思考で埋め尽くされていた。
さっき聞こえてきたクレアの声……泣きそうな声、だったよな。
たぶん、戦闘が始まった時からずっと俺のことを心配していてくれたんだろう。
不用意に声を掛けたら俺の邪魔になるからと、これまで黙っていたけど我慢ができなかったとばかりに。
また、俺が無茶なことをして死にかけるような目に合わないだろうか、という風な心配を……。
昨日シャーロットにそれを教えてもらって、だからクレアがあんなに頑張っているんだって知って、だからこそ俺はもうそんな心配をかけないように、この戦いを通して成長してみせるんだと意気込んでいたのに、俺は一体なにをやっているんだ。
目の前にいる戦姫が次の一撃を放とうと、剣を構え直している様子を見る。
これを防ぐ手立てを今の俺は持っていない。
でも、それをどうにかするために、今俺はここにいるんだろうが!
手がないのならそれを手に入れろ。
クレアのように上手く魔力を操ることも、ミリオのように上手く作戦を立てることも、アンネローゼのように上手く武器を扱うこともできず、ガルムリードのような打たれ強さも持っていない俺にとっての成長というのはそういうものだ。
速さが足りない、力が足りない、反応も追いついていない。
だったら、それを全部どうにかするための力を今ここで手に入れろ!
それができなきゃどうやってもあれには届かない。
だから、寄越せ! この状況を覆す力を、俺に寄越せ!
『スキル取得条件を満たしました。スキル《強制発動》を取得しました』




