挑戦8
跳躍の勢いに体の捻り、剣の重さを乗せた迷いのない一撃は、無防備に見える背中へと吸い込まれるように迫り、その重厚な鎧ごと叩き斬ろうとする。
「きたか」
だが、思い浮かべていた幻想を断ち斬るかのように、振り向きざまに放たれた鋭い剣撃によって防ぎ止められてしまい、どれだけ力を込めようとそれ以上剣身を押し込むことができない。
「いや、大したものだな君たちは。アンネローゼは言わずもがな。君の並外れた膂力や、複数戦闘における彼の対応力。どれを取っても下級のそれとは思えないほどに優秀だ」
こちらの全力を余裕で受け止めながら、戦姫はそのように俺たちを評価し、褒めるようにそう言ってみせる。
その声音は涼しげなもので、圧倒的な力の差を感じさせられるが、それ以上にどこか先程とは違う雰囲気を放つ彼女から、不気味ななにかを感じ取る。
「だが、しかし。まだまだ至らない部分があるのも確か。なので、これから私は君たちを少し追い込んでみようと思う。人というものは、自身が窮地に立たされてようやくその真価を発揮する生き物だからな」
そう言った戦姫からは、ますます嫌な気配が溢れ出し、手のひらが汗で湿り気を帯びる。
「それに、だ。場合によっては、実力以上のなにかが目覚める可能性もあるだろうさ。では、始めようか。君たちが私の予想を上回ってくれることを、期待しているぞ」
最後は囁くようにそう言った戦姫は、直後、正面から力任せにこちらの剣を押し退けようとしてくる。
だが、俺が戦姫とわずかにでも競える部分があるとすれば、純粋な力の勝負だけであり、彼女の背後から迫るアンネローゼがこちらへやってくるまではなんとしても持ちこたえようとして、重心をさらに前方へと傾けた瞬間──
「えっ?」
突然、自身の支えとなっていた戦姫の剣から力が抜け、前方に投げ出されるようにして体がつんのめり、直後に《危険察知》による警鐘が鳴り響くが、それと同時に腹部が重い衝撃に襲われた。
「ぅぐっ!?」
叩き込まれていたのは、剣の柄頭。
そして、さらに警鐘が鳴り響くと同時に追撃のなにかが顎に打ち込まれ、唐突に生まれた強烈な痛みに、一瞬視界が黒一色に染まり、息が詰まって呼吸もできなくなる。
だが、ここで落ちるわけにはいかないと歯を食い縛り、無理やりに意識を呼び起こした先で、またもや頭の中に警鐘が鳴り響く。
「っ!」
『アクティブスキル《不動》発動』
警鐘に合わせるようにして《不動》を発動させた直後、凄まじい音が耳元で発生する。
それは、戦姫の蹴りが側頭部に打ち込まれた音だったようで、目の前に足を振り上げた状態の彼女の姿があった。
「ほう! これを防ぐか」
兜の下は喜色満面なのが窺い知れるような声でそう言った戦姫は、だが、そこで動きを止めることはなく、蹴り足で反動をつけて体を回転させると、後ろ回し蹴りを俺の胸元へと叩き込んできた。
《不動》の効果が切れ、体の硬直が解かれた直後だったため、それに対してなんの対策も講じることのできなかった俺は、その直撃を受け、激しい勢いで後方へと撥ね飛ばされた。




