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戦闘開始

 …何だこの大量のゴブリンは。

 視界の届く範囲で見渡す限り、木々の合間を埋め尽くすほどのゴブリンの大群が口々に奇声を上げ、ひしめき合っている。

 前方では炎を立ち上らせた木々の爆ぜる音が鳴り響き、その赤色せきしょくの光に照らされたゴブリンたちの姿はまるで地獄から這い上がってきた餓鬼と見紛みまごうばかりのおどろおどろしさを醸し出していた。その不気味さに思わず息を飲み、一歩足を後ろに下げてしまう。

 その時、足下にあった枝を踏み折ってしまい、その妙に耳に残る小気味良い音を聞きつけたのか、前方を向いて振り返らないまま、セシリィが声を掛けてきた。


 「もしかしてアスマ?」

 「あぁ、俺だ」

 「さっき何となくこっちを振り返ったような気がしてたけど、やっぱり追いかけてきちゃったのね」

 「いや、何かあったのかと思って来たんだけど。何だこれ? いったい何が起こってるんだ?」

 「知らない。けど、まずいわ。あいつらどういうつもりかは知らないけど、この森を焼き尽くそうとしてるみたいなの」

 「みたいだな。で、どうすんだこれ」

 「どうするも何も、ここでどうにかするしかないじゃない。このまま放っといたら森は全焼するし、助けを呼びに行く人員を割く余裕もない。…正直アンタが戻ってきてくれて助かったわ。確かアンタ水魔術使えたわよね? どの程度まで扱うことができる?」

 「残念だけど、ただ出すことだけしかできない。魔力操作が苦手で一番簡単な魔術すら使えない」


 本当に残念だけどそれが現実だ。俺にできることなんてたかが知れている。


 「出せるだけでも上等よ。で、それってどれぐらい出し続けることができるの?」

 「悪い、分からん。でも、出せっていうんなら魔力の持つ限り限界一杯まで絞り出してやる」

 「あら、男らしいじゃない。よし、エル!」

 「…ん。お願い」


 レイエルがこっちに振り返りそう呟いた瞬間、俺の目の前に突如として大穴が現れた。


 「うぉっ! 何じゃこりゃ。え? もしかして今のが精霊術?」

 「…ん」


 マジか。術名を口に出すことすらせずに、視線を向けただけでこんな大穴を作り出しやがった。やってること自体はアースピットと何ら変わりはしないが、魔術の場合、術を発動するまでに魔力を集中させる溜めの時間が多少とはいえ必要になる。だが、今レイエルは本当に振り返ると同時に術を発動させてみせた。…おいセシリィよ。魔術師を散々おかしいやつ扱いしてたけど、精霊術も大概じゃねぇかよ。

 というか、何の気配もなくいきなり穴が現れたけど、もしかして精霊って人間には知覚できないのか?魔力も目には見えないけどある程度感知はできる。それすらもできないなんて。


 「アスマ! アンタはそこにありったけの水を注ぎ込んで! エルはその水を使ってこの火を消化! 水霊が少なくても水自体があれば問題なくできるわね!」

 「…ん!」

 「よし! アタシとティアは目の前のゴブリン共を殲滅するわよ!」

 「うん!」

 「アスマは魔力が限界に近づいたら術を中断して索敵! ゴブリンの中にこの状況を作り出してる術師がいるはずよ! 後方からの投擲でそいつを仕留めて! いい? 絶対に前に出てくるんじゃないわよ! もし出てきたら」


 そこでセシリィは言葉を区切ると、両の腰に下げていた小剣を同時に抜き放つ。


 「真っ二つになるから!」


 ぞっとするような台詞を捨て去り、まるで風のような俊敏さで駆け出したセシリィ。それを追って、ミーティアも背負っていた長剣を抜き放ちすべるようななめらかさでその場を後にした。

 二人はゴブリンの群れに肉薄すると、セシリィは縦横無尽、手当たり次第にゴブリンを斬り飛ばしていく。ミーティアはその長い剣を一振りする度に二、三体のゴブリンをまとめて始末していく。

 その姿は正に鬼神の如く。小鬼程度ではまるで歯が立たない圧倒的火力と速度で、次から次へと斬り伏せていく。

 …と、見惚れている場合じゃない。俺も俺の役割をこなさないと。

 右手を前に突き出し、左手はそれを支えるように手首を掴む。魔力を右手に集中させ、変換する。後はこれを解き放てばいいだけだ。


 「《クリエイトウォーター》!」


 細かい調整なんかはいらない。今はただ、全力で放出し続ける。

 戦いはまだ始まったばかりだ…。

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