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魔刃使い4

 刀身の腹を叩きつけるようなその一撃は、体を前へと倒し、腕を伸ばしきっているクレアには躱すことのできないもので、腕を打ちつけられ短剣を手放してしまえば、続く二撃目を突きつけられて終わりだ。

 と、その情景を思い浮かべながらも、戦姫相手にここまでの戦果を挙げたクレアのことを誇らしく思い、ある種尊敬の念を抱いて、心からの称賛を送っていたそんな時、どこからともなく聞こえてきた異音が耳についた。

 それは、なにかが軋むような不快な音。

 それは、硬質なものを引っ掻いたような耐え難い音。

 それは、鉄同士を擦り合わせたような耳に刺さる音。


『……はあぁぁっ!』


 そして、それを消し去るようなクレアの叫びが響いた瞬間、その手に握っていた短剣から幾筋もの魔力光が溢れ出し、致命的なまでの破裂音と共に砕け散った。


「っ!?」


 短剣を中心にして発生した、光を伴ったその衝撃は、まるで指向性があるかのように前方と左右のみに広がりをみせ、ニーアさんの剣筋を逸らすと同時にその体勢を崩す。


『……っ!!』


 そこへ向け、もう一歩を踏み込んでみせたクレアは、拳を固くにぎり締めると、倒れ込むようにしてそれを放つ。

 その一撃は、それこそ、ただがむしゃらに放っただけのもので、脅威を感じることもない、凡庸な打撃だ。

 だがそれでも、その拳は、俺たちの誰も越えられなかった剣の絶対防壁を越え、たしかに彼女の胸元を打ってみせた。


『……ぁ』


 しかし、そこが限界だったのだろう。

 魔力も気力も、ほぼすべてを出し尽くしてみせたクレアは、自身の体を支えることすらも難しいようで、その場に膝から崩れ落ちそうになる。


「っと」


 その弱々しく倒れ込みそうな体を、腕を差し出して受け止めたニーアさんは、片手で器用に剣を回して鞘に納めてみせ、「大丈夫か?」とクレアへ声を掛けた。

 それに対し、クレアは短く『はい』とだけ答えると、ニーアさんは「よし」と言ってみせ、その体を両腕で抱えてこちらまで帰ってくる。

 そして、自立するのは無理だと判断したのか、彼女は俺たちの傍にクレアの体を下ろし、座らせてみせた。


「大丈夫か、クレア。怪我とかしてないか?」


 先程の一部始終を見ていた俺としては、短剣の破片が刺さっていないか、素手で鎧を殴ったことで拳を痛めていないかなど、色々と心配な点が多く、声を掛けると同時に屈み込んでクレアの様子を窺ってみる。


『……うん……大丈夫だよ』


 と、微笑んでみせたクレアの姿にひとまずは安堵を覚え、胸を撫で下ろした。

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