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斧の戦姫6

「ふぅ。そういえば、獣人の中にはこれを使えるやつがいるの忘れてたわ」


 砂ぼこりが舞う中、レウナーレさんは外れてしまった兜を被り直してそう独りごちる。

 そして、彼女は斧の先端で倒れ伏したガルムリードの体を数度つつくと、今度こそもう立ち上がってはこないだろうと確信したのか、一つ息をついて踵を返す。


「……おい」

「え?」


 だが、そんな彼女の期待を裏切るかのように、ガルムリードはその二本の足で立ち上がってみせた。

 その姿は限界も限界で、体は震え、膝は笑い、息も荒れている。

 さらに、叩き潰された時に骨が折れてしまったのか、彼の左腕は力なく垂れ下がっていた。


「驚いた。まだ立てるのね」


 それはこっちも同感だ。

 あれだけやられて、なんでまだ立ち上がれるんだ?

 特にさっきのあの一撃。普通はあんなものを受けたら間違いなく意識を断ち切られるはずだ。

 だというのに、ガルムリードの瞳は真っ直ぐにレウナーレさんを捉えているようにみえる。


「……お前、なんでまたそんなもん被ってんだよ」

「うん? 兜のこと言ってるの?」

「……おう。せっかくいい面ぁしてんだ。隠すなんざもったいねぇだろぉが」


 ……なに言ってんだこいつ?

 人にとって頭は弱点なんだから防具で隠すのは当たり前だろ。

 いやまぁ、そういうことを言ってるんじゃないことはなんとなく分かってるんだけど、今言うことかそれ?


「なに、もしかして喧嘩売ってる? 兜で顔の傷隠して情けないっていう皮肉?」

「……あ? ちげぇよ。その傷も引っくるめて上等な面ぁしてんのに、見えなくしてんじゃねぇっつってんだ」

「ふっ。なにアンタ、まさか私のこと口説こうとしてる? なんて」


 ガルムリードの言葉を鼻で笑って、レウナーレさんは茶化すようにそんなことを言ってみせるが、それを受けた彼は、口の端を上げると「おうよ」と言ってそれを肯定した。


「……本気で言ってるの?」

「……本気に決まってんだろぉが。俺はお前に惚れた。だからお前、俺の女にならねぇかよ」


 唐突なガルムリードの告白に、開いた口が塞がらない。

 殴られすぎておかしくなったのか? と言っても過言じゃないぐらいには急な話の流れだ。正直、わけが分からない。


「ぷっ。くく、はははっ」


 そして、少しの沈黙の後、それを破ったのはレウナーレさんの堪えきれなくなったような笑い声だった。


「いや、悪いね。気持ちは嬉しいけど、私は自分より弱いやつに興味はないのよ。だから、お断り」


 ひとしきり笑ってみせ、ぶった斬るようにガルムリードの告白を断ったレウナーレさんは、話は終わりとばかりに手を振ってニーアさんの下へ戻ろうとする。


「……なら、てめぇより強くなったらいいんだな?」


 だが、その背中に語り掛けるよう、力強くそう言ってみせたガルムリードに彼女は「できるもんならね」とだけ返して、歩み去っていく。


「……かっ。上等」


 それを最後に、その場に崩れ落ちたガルムリードは今度こそ意識を失い、勝負は当然の如く戦姫側の圧倒的な勝利に終わった。

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