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斧の戦姫5

「だあぁらっ!」


 迫りくる一撃を前にして。

 ガルムリードは両の足で地を踏みしめると、交差させた腕を腰の回転と共に押し出し、自身ごとぶち当たるように斧と衝突する。


「ぐっっ、おあぁぁぁっ!!」


 咆哮一閃。

 受け止めた斧の圧力で、地面を抉りながら後退させられるガルムリード。

 だが、これまでのそれとは違い、撥ね飛ばされることもなくわずかな距離でその身を停止させた彼は、抉れ固まった土を蹴散らすように力強く跳躍すると、斧を振り切った状態のレウナーレさんに肉薄する。


「おぉっ!」


 そして、彼女の懐に潜り込み勢いを乗せた渾身の一撃を放つ──その寸前。


「ふふっ」


 という、笑い声が漏れ聞こえ。

 それと同時に尋常ならざる速度で斧を引き戻した彼女は、斧をこれまでの片手ではなく両手で掴み直すと、それを勢いよく振り下ろした。

 その一撃は、先程までの攻撃がいかに手を抜かれていたのかが分かるほどに鮮烈なもので、速さに鋭さ、込められている力強さが桁違いに感じられ、直撃してしまえばどれほど頑丈なものでも粉砕してしまいかねない迫力があった。

 正常な精神を持っていれば、あんなものを前にして冷静に行動することなんて決してできないだろう。

 だが、ガルムリードはそれを前にしてさえ、その顔に獰猛な笑みを浮かべていた。


「──ガァッ!!」


 そして、響き渡る轟音。


「っ?」


 それは衝撃を伴った咆哮。

 人体を物理的に硬直させる効果を持つ、獣人族だけに扱うことのできる固有の力。

 その効果はあの戦姫にさえも影響を及ぼすようで、それを受けたレウナーレさんの体も、びくりと震えた直後に硬直し、圧倒的な威力を秘めた一撃も停止する。


「はっ! ぶっ飛べや!」


 そうして作り出した隙をつき、ガルムリードは低い位置から振り上げた拳を彼女の顎に打ち込むと、踏ん張りが利かないせいかその体がわずかに浮かび上がり、その拍子に彼女の顔を覆っていた兜が吹き飛んだ。


「お?」


 中から出てきたのは、凛々しい顔つきの燃えるような赤毛が特徴の女性だ。

 だが、それ以上に目を惹くのは、左の目の上辺りから鼻を通り、右の顎の辺りまで走っている傷痕。

 刃物かなにかで斬りつけられたのだろうか。くっきりと残るそれは、痛々しくはあるが、どこか戦士らしさのようなものを感じさせられた。


「なんだよ。いい面ぁしてんじゃ──」


 と、言葉を放っている途中で、ガルムリードは真上から振るわれた超速の一撃により押し潰され、完全に沈黙させられてしまった。

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